●墓じまい見積もりはなんと100万円…。結局この問題は現在も残ったまま

墓と女性
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さて、ここからは後回しにしていた墓じまいです。

墓じまいには、お寺などの墓の管理者への申請が必要なだけではなく、改葬先や自治体から証明書を発行してもらうなど各種手続きが必要です。海洋葬や永代供養を行う業者は墓じまいも請け負っていることも多く、これらのサービスに申し込めば必要な手続きも行ってくれます。

私はネットで見つけた業者に見積もりを依頼することにしました。

各種手続きも含め、墓から遺骨を取り出し海洋葬を行うところまでで、遺骨11体分で約50万円。更地にする工事は指定の業者に頼まなければならず、こちらの見積もりは約50万円。墓じまい、海洋葬、工事を合計すると遺骨11体で約100万円となりました。もちろん遺骨が少なければもっと安くすみます。埋葬方法を海洋葬ではなく、永代供養や樹木葬などを選ぶとさらにかかります。

当初の予定ではとっくに墓じまいは終わっているはずでしたが、じつは2年たった今も終わっていません。

姉が墓じまいは自分が仕きると言い出し、業者に依頼しないまま今に至っています。何度か姉と話しましたが、最終的に私は見積もりの半額を渡して、墓の処理を姉にゆだねました。というのも、父が亡くなった翌年に私は海外に転出し、墓じまいを担うのが難しくなってしまったからです。

父に先立つこと5年前、ガンで亡くなった母は亡くなる直前に「散骨して」と私に言いました。母は“嫁”ですから、「実家の墓に入りたくない」と言ったのです。墓じまいで母の遺骨を出して父と同じ海に散骨すれば、母の気持ちも、母なしではなにもできなかった父も、どちらも満足すると思っていたのですが、うまくいかないものです。

そういったわけで、わが家の墓は現在も放置されたまま。こんなことになるなら、専門家にもっと早く入ってもらえばよかったと今は後悔しています…。

●多様化する墓じまいの形

近年の状況について、永代供養墓のパイオニアでもあり、寺院コンサルティングや墓じまいに関する事業も展開する「永代供養墓普及会」(株式会社エータイ)の広報担当・神谷春菜さんにお話を伺いました。

「墓じまいに伴う改葬件数が年間11万件を超えるというデータ(※)もあるように、弊社にご相談いただく件数も年々増えています。墓じまい(改葬)では思ったより費用がかかってしまう、ご親戚やお寺と意見が合わない、行政手続きなどでトラブルになるケースもあります。丁寧に準備を進められるようお手伝いしています」

神谷さんは、相談件数が増加している背景には、海洋葬や永代供養墓、納骨堂、樹木葬といったように、弔い方が多様化していることがあるといいます。

「どの方法もメリット・デメリットがあります。故人が安らかに眠るのにふさわしい場所はどこか、故人に想いをはせるのに適した埋葬方法はなにか、法要はどうするかなど、正解がないため決断が難しいのです。費用の面も重要ですが、後悔しない選択をすることが大切です」

現在は、子どものいない夫婦やいわゆる“おひとりさま”からのご相談に加え、子どものいる夫婦からの相談も増えていると神谷さん。

「ご相談で共通しているのは“継承者がいない”という実務的な問題や、“残された家族や周りに迷惑をかけたくない”というお気持ちです。責任感が強く、ご自分の代で墓を閉めることに罪悪感を覚える方には、培ってきた多くの事例と選択肢をお伝えし、墓じまい前提でなく、ご本人様が安心できる最善の方法をお選び頂くようさまざまなご提案をいたします。多くの方にとってお墓選びは生涯に一度。ご自身やご家族が納得できるよう、些細なことでもご相談いただければと思います」

わが家のように関係者が少ないケースでも、宙ぶらりんになってしまった墓じまい。自分たちだけで進めようとせず、早めに専門家に相談しておいたほうが最善なのではないでしょうか。

※厚生労働省「衛生行政報告例」より。2010年度の改葬件数は72,180件だったが、2018年度には115,384件と約1.6倍にまで増加。

当記事は、個人の体験なので、お住まいの地域等によって異なります。

【長根典子さん】

1971年横浜生まれ。制作会社勤務、50代向けファッション通販誌副編集長などを経て、フリーランスライターに。1人息子とプラハへ移住するもコロナ禍で帰国。ビジネスや投資のほか、子育て、ライフスタイル、ファッションなどの分野でも執筆。著書に『

成長する組織をつくる目標管理

』(労務行政)、『

誰が司法を裁くのか

』(リーダーズノート新書)など。趣味は英語、FX、アート。