北欧といえば、スローライフ、オーロラや森といった自然、洗練されたデザインといったイメージをもつ日本人は多いのではないでしょうか。
一方で、北欧はへヴィメタルのメッカでもあります。シャイで静寂を好む北欧の人たちに、なぜへヴィメタルが愛されるのか。
フィンランド人と結婚し、北欧文化に詳しいルミコ・ハーモニーさんが、その内情を考察してくれました。
北欧はなぜメタル天国?普段はシャイだからこそ…
私はフィンランド人と結婚し、暮らすようにフィンランドを旅しながら、さまざまな文化に触れてきました。
ただ、なかなか理解できなかったのが、北欧の人たちが熱狂的にヘヴィメタルを愛しているということ。
フィンランドは人口10万人あたり53.2のメタルバンドが存在し、人口比率で世界でもっとも多くのメタルバンドがいるメタル超大国です。
フィンランドの総人口が約550万人といわれているので、計算すると約3000のメタルバンドが活動していることになります。
シャイで、静寂を好む人たちがヘヴィメタル? と不思議に思っていましたが、コメディ映画『ヘヴィ・トリップ~俺たち崖っぷち北欧メタル!』を見たら、なんとなく理解できるような気がしました。
●メタル天国な北欧
北欧は、寒くて暗くて長い冬が続きます。部屋にこもって一人で没頭しやすいこの環境は、やはり音楽制作に向いているのではと感じます。
また、普段は沈黙を好んでいる分、没頭して発散するモードを必要としているのかもしれません。
ヘヴィメタ好きな夫にも、理由を聞いてみました。
「ヘヴィメタル好きの人は意外にもクラッシック音楽も好き。その音の複雑なハーモニーが人々を魅了するのではないかな。公共の図書館でギターが無料で借りられたり、自分の好きなものを好きと言える風潮も、北欧メタルが目立った素地となったのでは?」
つまり、北欧はほかの国よりも体裁を気にせず、自分の好みを大切にできるので、好きを好きだと言え、楽しめる。そんな環境で表出したのが北欧メタル文化なのかなと感じました。
●フィンランドのリアルな暮らし
この映画では、フィンランドのリアルな片田舎暮らしが描かれています。村民の数も少なく、みんな知り合いで、小競り合いや色恋沙汰が日常茶飯事。
娯楽もなく、退屈な暮らしだからこそ、鬱屈した思いをへヴィメタルで発散したいのかもしれません。
登場するバンドメンバーの職業も興味深いです。
主人公の25歳の青年トゥロは、村の介護施設に勤務しています。ほかのメンバーは、図書館勤務だったり、実家のトナカイの解体業の手伝いをしていたりと、「へヴィメタル」のイメージからは一見遠いように思えます。
フィンランドでは、トナカイが一般的に食されています。ヘラジカは野生ですが、トナカイはすべて家畜なのだそうです。
ラップランドで実際トナカイスープを食したことがありますが、味つけが日本の肉ジャガっぽかったのが印象的でした。
ちなみに映画に出てくる、オーツ麦を炊いてお粥状態にしたものにジャムやシナモンなどをかけて食す料理も、フィンランドの朝食の定番。
そんな描写も、この映画の楽しみ方のひとつです。
映画を観終わって、私も「ヘヴィメタル大好き!」…となったわけではありませんが、一見「理解できない」と感じるような趣味趣向の人たちにも、普段の暮らしがあり、悩みがあり…ということを発見できて、とても興味深い体験でした。
『へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』配給: SPACE SHOWER FILMS
(C) Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018
2019年12月27日より劇場公開