毎年3月20日の国際幸福デーの日に、国連の関連団体から発表される「世界幸福度ランキング」。
2019年は世界の156か国を対象に調査され、上位を占めたのは北欧諸国。なかでもフィンランドは2018年に続き2年連続1位を獲得しました。
フィンランド人の夫をもち、北欧ライフスタイルを研究しているルミコ・ハーモニーさんは、「フィンランドを訪れるたびに、幸せに生きる秘訣を発見します」と語ります。日本とフィンランドを行き来するなかで見つけた、幸せのヒントを紹介してもらいました。
日本とフィンランドを行き来しているなかで発見した、北欧流の幸せのヒント
●DoingよりBeing
・「ちょっと外で座りませんか」という誘い文句フィンランド人の夫が学生時代の友人宅に泊まった夜、友人から「ちょっと外で座りませんか」と誘われたそうです。
日本人だと、「ちょっと一杯飲みませんか?」「ちょっとお話があるのですが」と言って、肩を並べることはあるとは思います。でも「なにか大切な話があるのかな?」とその意図を探り、空気を読んでしまうもの。
フィンランド人はそうではありません。大人である二人の男が、庭で肩を並べてただ座っているのです。「なにか話したの?」と聞くと、とくになにも話してないそう。
日本人はなにをするか(doing)を求めてばかりいるけれど、フィンランド人はどうあるか(being)を大切にするのだと感じました。
・エアギター選手権、携帯投げゲーム、アニマルステッキレースなどのおもしろ選手権フィンランドは学習到達度が高いことや、洗練されたデザインが有名ですが、一方でおもしろ選手権が多いことでも知られます。
たとえば、エアギター選手権。日本人も多く出場しているそれは、ギターを演奏する真似をしてどれだけそれが上手かを争うコンテストです。
ほかにも「携帯投げ選手権」や「妻運びレース」などがあり、なぜそのような文化が生まれ広がるのか理解できませんでした。
しかし今年の夏フィンランドに滞在した際、そのようなおもしろ選手権のひとつ、「ホースステッキレース」を目撃。馬の頭部のヌイグルミに棒がついていて、乗馬しているような感じでまたがり、ハードルを飛び越えて速さを競うレースです。
片田舎に40人以上の子どもが集まり、馬の棒にまたがり、本物よろしく馬のギャロップなども真剣にしている様を目の当たりにして、次第にこの人たちは本気なのだと理解しました。
日本だと、ネタなの? と思えることも、オリンピック出場も、彼らにとっては同等のレベルで真剣にやるのです。そこに馬鹿にする雰囲気はありません。
他人にどう評価されるかよりも、自分がどうしたいかを大切にできるフィンランド人の姿がそこにありました。
●自立する人々
フィンランドも高齢化が進行していますが、よく見かけるのがこの歩行器です。少し脚が悪くなっても、自分の力で歩くんだという意気込みを感じられます。
また目の悪い95歳の祖母が、セーターの破けたところを針と糸で繕っていたのにはビックリしました。
まずは自分でやってみるところに、自立心の強さを感じます。高齢ですが、マンションのような高齢者施設で一人暮らしをしています。
サポートする側からすると目の届かないリスクを心配してしまいますが、極力自立して生活することが推奨されています。
フィンランドの家では、本宅の脇に同じデザインの小さな家があることが多いです(といっても、日本感覚ではそこそこ大きいのですが)。Leikkimökki(レイッキモッキ)といい、子どもだけの遊ぶ家なのだそう。
日本だと、極力目の届くところで子どもを遊ばせて、危険を回避したい、喧嘩もさせないようにしたいと、先回りをして介入しがちです。
しかし、フィンランド人は、しっかりとMiksi(ミクシ/「なぜ?」を意味する言葉)に重点を置いて思考し、コミュニケーションをとります。「なぜこれをしてはいけないか、それは危ないから」などと説明をして、あとは子どもを信頼して介入しません。
●フィンランドの保育園はほったらかし
ここで、フィンランドの教育事情に詳しい、フィンランド在住のライター・靴家さちこさんのお話を紹介したいと思います。
靴家さんいわく、緯度の高いフィンランドでは極力太陽光を浴びなければならないので、公園遊びは必須。
「その際、付き添いの先生は、日本のママたちのように一緒になって遊ぶということはしません。常に親が子どもから目を離してはダメとされている日本から来たばかりのとき、先生たちが子どもを放って井戸端会議をしている風景を目の当たりにし、度肝を抜かれました」
しかし、実際のところ先生たちは、談笑しているとはいえ、全方位に注意は働き、子どもが危ないことをしていると、すかさず注意をします。
「フィンランド人は、個人主義。外で遊ぶときは子どもたち同士で遊び、先生は先生たちの憩いのひとときを過ごすべき、ということを大切にする文化なのです」
「自分の気持ちを言葉にして表すことも、幼い頃から推奨されます」と靴家さん。
「写真のように、自分の感情のところにクリップをとめるボードを掲示する保育園も少なくありません。日本では、自分の気持ちがどうであれ、全体の利益を優先すべきと教え込まれます。しかし、フィンランドでは、今自分が楽しい、悲しい、眠い、怒っているなどの感情をまずみんなに表現することが許されているばかりか、推奨さえされているのです。みんなに表現することで、自己認識も捗り、Miksi(なぜ?)自分はそういう気持ちになって、どうすればいいのか…と、思考を進められるのです」
●キーワードは、リスペクト
フィンランド人はシャイで、日本人に似ているところもあります。しかし決定的に違うのは、今まで述べてきたエピソードはすべて、根底に「リスペクト」があること。
なにをリスペクトするのか、それは自分をリスペクトすることです。結果、他人もリスペクトします。
自分にとってどういう状態が良好か、つまりウェルビーイングを大切にすることが、フィンランドの幸せの秘訣なのだと感じています。
【ルミコハーモニーさん】
北欧ライフスタイル研究家・アーティスト。フィンランド人と結婚3児を迎え、1年のブラジル逗留を経て、親子で国際交流を支援するNPO法人ザ・グローバル・ファミリーズを創設し副理事長を務める。同時にアーティストとしての活動も開始。2016年にはバイリンガルアート団体LITTLE ARTISTS LEAGUEを創設
【靴家さちこさん】
ライター。5~7歳までをタイのバンコクに暮らし、高校時代にアメリカ・ノースダコタ州へ留学。青山学院大学文学部を卒業後、米国系企業、NOKIA JAPANを経て、2004年よりフィンランドへ。以降、社会福祉、育児、教育、デザインを中心に、フィンランドのライフスタイル全般に関して、取材、執筆活動を行う