秋篠宮眞子様が公表した「PTSD」「心的外傷後ストレス障害」というキーワード。その原因や症状についてさまざまな憶測を呼んでいます。
実際どのようなことが原因で、どのような症状が引き起こされるのか、うつ専門メンタルコーチで、公認心理師の川本義巳さんに解説してもらいました。

ハートに傷
写真はイメージです
すべての画像を見る(全1枚)

トラウマ体験はPTSDの原因に繋がる?意外な研究結果も

秋篠宮眞子様のご結婚への準備が着々と進み、連日報道されているのはご存じの通りです。おめでたい話ではありますが、同時に眞子様が「複雑性心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と診断されたと公表され、注目されるように。原因は長期に渡る誹謗中傷によるものとのことですが、まずは一日も早いご回復をお祈りするばかりです。

さて、今回話題になった心的外傷後ストレス障害、いわゆるPTSDですが、言葉はよく耳にするものの具体的にはわからないという人もいらっしゃるのではないかと思います。また「トラウマとPTSDの関係は?」という人もいらっしゃるかもしれません。
そこで今日は、トラウマとPTSDについてお話をしていきたいと思います。

●トラウマ体験が原因の場合の診断基準とは?

まずはトラウマですが、これはPTSDの「心的外傷」に当たる部分のことを指します。災害や事故、犯罪、戦争などその人が体験した耐え難い恐怖や苦痛などの経験が心の傷となって残ることだと思ってください。虐待やいじめもその原因のひとつになります。
そしてPTSDは、トラウマ体験によって引き起こされた症状が継続していることにより診断されるものになります。その診断基準(DSM-V)では次のように定義されています。

「トラウマ体験のあとに生じる疾患で主要症状としては次の4つがあり、それらが大よそ1か月以上続き、社会生活を送ることが困難になっている場合にPTSDと診断される。」

(1) 再体験症状(フラッシュバックや悪夢を見る)

(2) 回避症状(トラウマ体験をした場所に行けなくなる)

(3) 否定的な認知や感情(「自分が悪い」「誰も信じられない」「楽しいと感じない」など)

(4) 過感覚症状(不眠・イライラ・ちょっとしたことでもビクッとする など)

これを見るだけでもかなり大変な病気だということがわかります。そして「トラウマは消えない」と聞いたことがある人もいると思うのですが、もし本当にトラウマが消えないのであれば、そこから発生したPTSDも治すのが困難な病気と考えることができます。

●アメリカでは50%以上がトラウマ体験をしている…?

これに対して、とても興味深い説がありますのでご紹介します。アメリカの心理療法家、ビル・オハンロンの著書『可能性のある未来につながるトラウマ解消のクイック・ステップ』(金剛出版刊)に1990年代にアメリカで行われた2つの研究で発見された内容として次のことが書かれています。

「アメリカにおいて、60.7%の男性と51.2%の女性がDSM-ⅳ(当時はⅤではなくⅳが基準でした)におけるPTSDの項目を満たすトラウマ体験を少なくとも1回は経験している。」
「デトロイトでは、ほぼ90%近い住人がトラウマ体験をしている。しかし、アメリカにおけるPTSDの生涯有病率は7.8%であり、デトロイトでも9.2%である」

これらの研究から、アメリカにおいて本来であれば50%以上の人がPTSDになってもおかしくないようなトラウマ体験をしているにも関わらず、実際に一生のうちに発症する人は、10%以下であるということがわかりました。かなり減りますよね。

●人とのつながりが回復の助けになる

では、実際にPTSDになることを回避できた多くの人には何が起こっていたのでしょうか? これに対しオハンロン氏は「レジリエンス(自己回復力)が働いたため」としています。もちろん医療的なケアによるサポートも含みますが、もともと人間には自ら苦難を乗り越える力が備わっており、それはトラウマなど大きな苦痛を伴う体験のときに強く表れることも発見されています。

オハンロン氏の著書では、人間にはトラウマを乗り越える力があるとされていますが、この乗り越える力=自己回復力は、「誰かと一緒にいることで発揮されやすい」とも言われています。これはうつ病にも言えることなのですが、「誰かとつながっている」ということは、人の心の健康にとって重要なことだと言えるでしょう。