●70代でパソコンをスタート!

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スマートウォッチ、パルスオキシメーター、血糖測定値は富美子さんの健康管理のために必須アイテム。記録はもちろんスマートフォンで
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二度と、戦争はいけない。あんな経験をする人が、二度と出てはいけない。その強い思いが、富美子さんを動かしました。

「こんな年になるまで黙っていた自分が情けなくて。今はこういういいもの(SNS)があるのだから、市民が声を出せる時代。もう黙っていられないと思いました」

とはいえ、御年92歳。お元気なご様子に、ついつい年齢を忘れがちですが、普段からパソコンにはなじんでいらっしゃった?

「それは、私です(笑)」
娘の京子さんが笑いながら手を挙げました。京子さんが代理で入力しているのか、と思いきや?

「母が70歳のころ、当時は長崎で兄や妹たちと暮らしていたんですが、そこに私がノートパソコンをどーん、と送りつけたんです」
お兄さんも妹さんもアナログ人間。日頃からパソコンなど使う人たちではなかったといいます。まして富美子さんは触ったことすらありません。
「パソコン人口もまだ少なかったころなので、まず母に始めてもらおうと思って」

大概乱暴なやり方ではありますが、京子さんの思惑はドンピシャでした。まずは箱を開けて、電源を繋いでスイッチを入れるところから。電話とファックスを駆使して京子さんの指示に従いながら、初期設定から自力でがんばりました。

「時間をつくっては、ブラインドタッチの練習ソフトを使っていたら、キーボードもすらすら打てるようになっちゃいました」と富美子さん。

「メールが打てるようになるのに一か月はかかると思っていたのですが、なんと翌日にはローマ字のメールが届きました。そのほかにも、aibo、薄型大画面テレビ…新しいものは何でも、母に送りました」(京子さん)

●スマホ依存症!と笑われるほどに

外に森田富美子さん

それからというもの、LINEにツイッター、富美子さんの世界はぐんぐん広がりました。

「3年ほど前、交通事故に遭ったんです。その時もね、LINEで娘に来てもらって…」

横断歩道を渡っていた富美子さん、運送会社の大型トラックに跳ねられ、数メートルも飛ばされたのです!

娘の京子さんに第一報が入ったのは、お母さんからのLINEでした。

「急いで来てくれってLINEが来て。私が仕事から帰る時間帯だったし、買い物でもして荷物が重たいから助けに来い、って話しかと思ったら」(京子さん)

言われた場所に近づくと、救急車やパトカーが停まっています。スマホには「早く来て!」と着信。ただ事ではないと気づいた京子さんが焦って現場に到着すると…。

「角の植え込みに座り込んで、スマホをポチポチやってるんですよ! まったくもう…!(笑)」(京子さん)

「それがねえ。まったくの無傷だったんですよ。飛ばされ方がうまかったのかしら(笑)」(富美子さん)

夕方の商店街。大勢の目撃者もいて、富美子さんが信号無視はしていないことを証言してくれました。どうやら大型トラックの死角に入ってしまったようです。

「運転手さんも自分の不注意だって謝ってくださってね。うちの実家の洋品店に、いつも品物を届けてくださる運送会社さんだったから、なんだか懐かしくて。神社のすぐそばだったし、神様にも両親からも守られてるのかなあって」

今や、スマートウォッチで血圧や体温をチェック、スマホのアプリに自分で入力。血糖値を調べるデバイスも身につけて、健康管理にいそしんでいる富美子さん。

「思いがけず、ツイッターで若い人たちとも交流できるようになりました。まだまだ伝えたいことはたくさん。元気でいなくちゃ、と思っていますよ」