●「盗撮さえしなければ……」加害者の妻が離婚しない理由

夫婦
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では、夫が性犯罪加害者となってしまった妻の場合はどうでしょう?

「妻の会の参加者の多くが、『夫は盗撮さえしなければ本当にいい人なんです』と口にします。彼らは普段は真面目に働いて、家事も子育ても積極的にこなすイクメン。彼女たちにとって夫は盗撮加害者にならなければ、非の打ちどころのない存在なのです。

これを読んでいる人には『そんなことしたら即離婚よ!』と思う人もいるかもしれませんが、特に子どもが幼い場合は『こんないいパパを私の一存で子どもたちから奪っていいのだろうか』という葛藤にも悩まされています。そのため『逮捕、即離婚』とはならないケースが非常に多いのです」

●妻に向けられる「セックスレスだから夫が性犯罪に走った」という偏見

さらに、彼女たちの肩に重く押しかかるのが「性欲原因論」だといいます。

「これは『セックスレスによって夫が問題行動に走ったのでは?』という誤った憶測です。そもそも日本人カップルの半数がセックスレスといわれる現代、夫婦生活がないのは珍しいことではありません。セックスレスと盗撮に因果関係を見いだそうとする議論は荒唐無稽です」と斉藤先生はピシャリ。

「この前提として、日本社会には『夫の性欲は妻が受け止めるべき』という男尊女卑的な価値観がいまだ根強くはびこっています。そしてこの考えは、女性にも内面化されています。そのため夫が逮捕されたばかりのときは、妻も『盗撮=性欲のはけ口』と捉え、『浮気や風俗だったらまだよかったのに!』と口にする人も少なくありません」

●「病気だから仕方がない」は免罪符にならない

パソコンの前で悩む女性

理解しがたい夫の行動に対する驚きと失望、「性欲原因論」による「妻としての責任」という二次被害、子どもにとっての良きパパを奪えないという葛藤、同性・同年代の被害者が受けた苦痛…妻たちは二重にも三重にも苦しみ、その苦悩を誰とも共有できない孤独な状態に陥ります。

「こうした状況で妻は、夫とともにクリニックを受診し、『盗撮をする背景には性依存症という病気がある』『適切な治療を受ければ、再発防止ができる』と説明を受け、光明を見いだします」

ただ、その説明は非常に慎重に行わなければいけません。

「『病気だから罪を犯しても仕方がない』ということではないですし、被害者にとっては病気であろうがなかろうが、傷つけられたことに変わりはありません。どんな理由があっても性犯罪は許されません。しかし加害者家族にとっては、自分が再生するための道が少しだけ見える瞬間でもあるのです」

●家族の支えが治療や再犯防止の大きな力になる

榎本クリニックのデータによると、配偶者がいる加害者のほうが、未婚者に比べて治療継続率が高いことは、過去のプログラム実績からも明らかなのだとか。

「もちろんそれぞれの家族がさまざまな事情を抱えているので、事件がきっかけで離婚したり、別居することはやむを得ませんが、家族のサポートはかけがえのないものなのです」

性犯罪のニュースを聞くと、つい私たちは「親に問題があったんじゃないの?」「妻がしっかりしていないから」など一方的な憶測や思い込みでバッシングしてしまうこともあります。しかし性犯罪の再発を防ぎ、新たな被害者を生まないためにも、正しい理解のもと加害者家族の支援の必要性を知ることも大切なのです。