庭の緑を楽しむ家づくりをしたい。そんな願いを持つ人が増えています。こちらの注文住宅の事例を参考に、ぜひその願いをかなえてみましょう。 こちらに住むのは、長年、高層ビルが林立する都心で暮らし、多忙な日々を送ってきたYさん夫妻。ほどよい自然が残る夫の地元でスタートした新生活は、それまで興味がなかった庭仕事に目覚めるきっかけにもなりました。 上の写真は、リビングの脇の畳コーナー。コハウチワカエデの眺めを切り取るピクチャーウインドーにより、室内にいながら緑の癒やしを間近に感じられるビュースポットです。「テレワークで長時間モニター画面を見ているので、緑を眺めると目が休まりますね」(夫)。
すべての画像を見る(全20枚)目次:
家の北側を開くプランで、落ち着いた光を楽しんでいます緑に包まれた環境で、ライフスタイルにも変化が戸外の緑を室内から楽しむ&じかに味わうこだわりポイント映画館のような臨場感満点のリビングシアターホテルライクな2階寝室は見晴らし抜群家の北側を開くプランで、落ち着いた光を楽しんでいます
Yさんの家 神奈川県 家族構成/夫40代 妻30代
設計/井上 玄(GEN INOUE)
この家のこだわりポイント
- キッチン、洗濯動線を最短に
- アートも緑も楽しむギャラリー
- リビングをシアタールームに
- 借景を望むホテルライクな寝室
畳コーナーの隣にある夫の書斎。プラモデルをつくる趣味室として使っていましたが、テレワークを始めてからは仕事場と兼用。パソコンのモニターにアームを取りつけ、限られたスペースを有効活用できるようDIYしました。
コンパクトな空間に、お気に入りのものが楽しげに並んでいます。
緑に包まれた環境で、ライフスタイルにも変化が
以前はゲーム関係の会社で働いていたYさん夫妻。現在フリーランスの夫は、「長年、都心でデジタルの世界にどっぷりつかったハードな生活を送ってきて、新居はストレスフリーの癒やされる住まいにしたかった」と言います。敷地は夫の実家近くの田園風景が残る郊外にあり、向かいに神社の借景が広がる閑静な立地が決め手になりました。
この家は北側から採光するプランですが、その理由は「南側から日差しが入る以前の住まいが暑すぎたから」(夫)。穏やかな光に包まれる北側テラスの外には、常緑樹と木製格子を配し、前面道路への目隠しをしながら街と緩くつながっています。
また、妻の要望でリビングに坪庭を眺める畳コーナーをつくり、季節ごとに姿を変える落葉樹を楽しんでいます。
「ふたりとも庭仕事にはまったく興味がなく、植栽は窓越しに眺めるインテリアと考えていました。でも、紅葉しなかったり、虫に食われたりして世話をするようになると、植物が成長する手応えを感じるように。今ではその生命力に日々癒やされています」(夫)
長年の夢だった大音量で楽しめるシアタールームも実現。2階まで吹き抜けた大空間リビングに、プロジェクターとスクリーンを備え、迫力ある映像とサウンドを楽しめるようになりました。毎日使うキッチンの動線や洗濯動線にも共働き夫妻のこだわりが反映され、家づくりは大成功です。
戸外の緑を室内から楽しむ&じかに味わうこだわりポイント
POINT 1 植栽と木製格子で街とつながり&目隠し
正面の木製格子の内側には常緑樹を植えて、奥の北側テラスとダイニングを緑のカーテンで目隠し。閉鎖的な塀やフェンスとは違う、街に対して緩くつながる関係性が生まれます。
POINT 2 居心地がいい北側テラス
日差しが照りつける南庭よりも、安定した穏やかな光に包まれる北側テラスを設置。「外からの視線はまったく気になりません」と夫。趣味のキャンプ道具を出してバーベキューも。
POINT 3 砂利敷き・床タイルで雑草対策
「緑を眺めるのは好きだけど、庭が草ボウボウになるのはちょっと…」と夫妻。そこで植栽の足元に砂利を敷き詰め、その周囲をタイル貼りにして、雑草を生えにくくしています。
POINT 4 囲われて安心感のある北庭と外階段
北側テラスから外階段まで、木製格子をコの字型に囲むことで落ち着きが生まれ、奥にある玄関戸も外から見えにくくなりました。室内からは高木から中木、低木までの木々を楽しめます。
POINT 5 DKから楽しめる緑と借景
テラスに面した窓を天井際まで設け、庭のアオダモやハイノキ、ゲッケイジュなどの眺めや借景を額縁のように切り取りました。視界を遮らないようサッシ枠は最小限にしています。
POINT 6 落葉樹で四季の移り変わりを楽しむ
「畳コーナーは腰かけて坪庭を眺める和の空間。季節の移り変わりが感じられる落葉樹のコハウチワカエデを植えました。美しい新緑のあとは次第に緑が濃くなっていきます」(妻)。
POINT 7 高木を選んで2階にも緑の眺めを
高さ3m程度まで成長する高木を坪庭に植え、2階の窓からも緑を楽しんでいます。窓辺のセル画はアニメ映画監督の今敏さんから直接サインをもらった『パーフェクトブルー』。
POINT 8 「見せる窓」を設けて緑をアイキャッチに
「外出・帰宅時の施錠ストレスをなくそうと、近づくと自動で開閉する引き戸を選びました」と夫。戸を開けた瞬間、正面奥のシマトネリコの緑に目を奪われドラマティックな効果が。
POINT 9 複数の部屋から緑を共有
西側の坪庭に植えた高木のコハウチワカエデは1階畳コーナーと2階客間から、同じ高木のシマトネリコは1階玄関土間と2階浴室から眺めを楽しめるように配置されています。
映画館のような臨場感満点のリビングシアター
上下階ともインテリアはホテルライクなテイストに。キッチンでは食洗機の向かいを食器の収納場所にし、今年子どもが生まれる予定の夫妻の家事動線を最短にしました。憧れだったという片持ち構造のスケルトン階段は、愛猫チャムちゃんもお気に入り。鉄骨フレームの一部を壁に埋め込み、踏み板を無垢板で巻いて仕上げました。
サラウンドスピーカーが埋め込まれた構造表しのリビング吹き抜け天井。
スクリーンを下ろし、プロジェクターをオンにすればリビングがシアタールームに早変わり。スピーカーの重低音がズシンと響く迫力のサウンドです。
ギャラリーを兼ねた玄関土間。現在はロシアのイラストレーター、イリヤ・クブシノブさんの作品を飾っています。夜は奥の坪庭の木々をライトアップ。
ホテルライクな2階寝室は見晴らし抜群
神社の借景と空の広がりを一望する2階寝室。間接照明を仕込んだ腰壁とバルコニーの手すり壁の高さをそろえ、サッシの枠を最小限にしてすっきりと見せています。音に敏感な夫は開閉時の操作音が静かな建具を室内全般に選びました。
洗面室とサンルームの両側から使えるランドリー収納。下方には汚れ物ボックスも。乾いたタオルや下着、部屋着などをここに納め、そのほかはハンガーごとクローゼットに運んで、2階だけで完結する洗濯動線に。
2階で最も日当たりがいい室内干しサンルーム。洗濯乾燥機は右手に。
清潔感のある白いバスルーム。夫はスマホを持ち込んでくつろぐ長風呂派。「バスタブからは空と緑が見えて気持ちいいですね」(夫)。
DATA
敷地面積/194.11㎡(58.82坪)
延床面積/132.54㎡(40.16坪)
1階/69.36㎡(21.02坪)
2階/63.18㎡(19.14坪)
用途地域/第1種低層住居専用地域
建ぺい率/40%
容積率/80%
構造/木造軸組工法
竣工/2018年12月
素材
[外部仕上げ]
屋根/FRP防水、カラーベスト
外壁/金属サイディング、窯業系平形スレート、リシン吹き付け
[内部仕上げ]
1階 床/複合フローリング(ウォールナット)、畳、タイル
壁・天井/クロス、一部窯業系平形スレート、木毛セメント板
2階 床/複合フローリング(ウォールナット)、
一部カーペット
壁・天井/クロス
設備
厨房機器/リビングプロダクト
衛生機器/TOTO、LIXIL、FONTE TRADING
窓・サッシ/LIXIL
造園設計/en景観設計
施工/栄伸建設
設計/井上 玄(GEN INOUE)
撮影/中村風詩人 ※情報は「住まいの設計2021年8月号」取材時のものです