建築家にリノベ設計を依頼して、個性あふれる家に生まれ変わらせたい。そう思っても、戸建て住宅をリノベーションする場合、家の古さや状態もさまざま。暑さ寒さの基本性能に問題があったり、住みにくい間取りだったり、耐震などの性能に不安を感じたり…。リノベを成功させるためには、どうすればよいのでしょう。ポイントを建築家の廣部剛司さんが語ってくれました。
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ポイント1. 自分の「好きなこと」を存分に伝えてくださいポイント2. 設計者とはたくさん雑談をしましょうポイント3. 信頼関係が築けたら、あとは安心してお任せしましょうポイント4. リノベーションには、できることとできないことがありますポイント5. リノベする建物について知りえることはすべて話してくださいポイント6. 想定外のことも起こります。臨機応変に対応しましょうポイント7. リノベの規模のイメージから、余裕をもたせた予算にポイント8. 暮らしの優先順位を考えておきましょうポイント9. お金のことで、駆け引きをするのは禁物ですポイント10. 正直なところ、建築家に依頼しないほうがいい人もポイント1. 自分の「好きなこと」を存分に伝えてください
リノベ設計を建築家に依頼するときに大切なのは「自分たちがしたい暮らし」のイメージを考えておくことです。設計者の仕事は「暮らしをデザインする」こと。そこに住む人の暮らしを豊かに、上質なものにするための方法を考えるのが設計の本質です。
そのためになにより大切なのは施主がどんな人で、どんな価値観を持つ人なのかを知ること。施主が家や暮らしにどんなイメージを持っているのか、どんなものが好きなのか、どんなものが好きではないのかが分かれば、建築家はそれを実現するための最適解を提案してくれるはずです。
打ち合わせのときには好きなモノやコト、こんな暮らしがしたいといったイメージを存分に語ってください。一見リノベには関係ないと思うことも話してほしいですね。言葉で伝えきれなければ、雑誌やウェブサイトなどのビジュアルを利用するのも有効だと思います。
ポイント2. 設計者とはたくさん雑談をしましょう
私は「雑談」も重要だと思っています。もちろん計画に必要なことはアンケートシートのようなものに書いてもらう事務所は多いと思いますが、それだけで十分だとは思いません。
「ポイント1」とも関係しますが、打ち合わせの際にさまざまな雑談をすると、その人の人となりや本当に求めている暮らしが見えてくるものです。そこから新しい発想が生まれてくることもあります。
ですから、趣味でも料理でも、好きな音楽や最近読んだ本の話などもたくさん話してください。建築家は雑談の行間にあるもの、明確に言語化されていないものをくみ取って、それを設計に反映させてくれるはずですよ。
ポイント3. 信頼関係が築けたら、あとは安心してお任せしましょう
「ポイント1&2」のプロセスをきちんと経ていれば、建築家と施主はその家のリノベーションのイメージを共有できているはず。そんな関係性が構築できたら、あとは建築家を信頼して設計を任せてください。
見切り発車はいい結果をもたらすとは思いません。初めに時間がかかってでも、両者が同じ方向性のイメージを共有していれば、その後はスムーズに進んでいくはずですから。
ついつい最短距離で設計や施工を進めたくなることもあるかと思いますが、回り道がじつは近道だった、ということも。建築家から提案されるプランは、きっと施主の要望をかなえながら、住む人の個性が表れたプランになるはずですよ。
ポイント4. リノベーションには、できることとできないことがあります
戸建て住宅のリノベーションには、多くのハードルが待ち構えています。接道、建ぺい率、容積率、防火規制、再建築不可など法規上の規制によって、できること、できないことが決められているからです。
建築基準法の内容は時代によって違いますし、確認申請が必要なリノベーションではとくに注意が必要となります。ですから打ち合わせの段階で、たくさんの暮らしの夢を語っていただいたとしても、それが建築的にできないことであればあきらめなくてはならないのです。
だからといって意気消沈する必要はありません。そんなとき多くの建築家は発想を転換させて、別の案を用意してくれるはずです。もしかしたら思ってもいなかったプランが出てくるかもしれませんよ。
ポイント5. リノベする建物について知りえることはすべて話してください
リノベーションは考古学みたいなものだと思っています。それは壊す前の調査からさまざまなことを予測して計画を立てていかなければならないからです。
とくにリノベ前の住宅の質がどの程度ものかは、とても重要な要素になります。設計図書類が残っていればいいのですが、そんな物件ばかりではありません。中古住宅を購入してリノベする場合は、建物そのものの情報が少ない場合も。
基礎から手を入れるべきなのかどうかは調査してからの判断になりますが、それによって工事費用も大きく変わってきます。ですから、その建物について知りえることはすべて話してほしいのです。相続した古家などの場合は、土地の周辺状況まで含めた情報があるといいですね。
ポイント6. 想定外のことも起こります。臨機応変に対応しましょう
戸建てのリノベーションは、マンションなどと違って規格化された空間ではありませんし、構造自体も一軒ごとに違います。そのため、ケースバイケースで対応することになります。家の構造や基礎の状態などが、想像と違っていたということも多々あるのです。
いざ工事が始まってみると、基礎部分の老朽化が激しかったとか、敷地の下を隣家の配管が通っていたとか、思いもよらぬ事態に直面することも。そんなときは、予算も含めて、そのつど判断を迫られることがあるのです。
もちろん建築家はそんなトラブルの解決方法を探りますが、自分でも「不測の事態が起こるかも」という心構えを持ち、そんな局面になっても落ち着いた判断ができるようにしておきましょう。
ポイント7. リノベの規模のイメージから、余裕をもたせた予算に
予算が潤沢あるに越したことはありませんが、現実的には難しいことが多いですね。
予算計画は工事の規模や質で大きく変わってきます。具体的には建物自体にどれくらい手を入れるのか、水回りの位置は変更するのか、増築や減築を行うのか、仕上げのクオリティをどの程度にするのかをイメージして、予算を考えていけばいいと思います。
仮に自分たちの希望と予算が見合わなくても、既存のもので使えるものは極力使用したり、仕上げのクオリティを調整したりすれば予算に合わせられます。しかし、ギリギリの予算しか用意しないというのは危険すぎるので、ある程度余裕を持って予算を組んでおきましょう。予算に余裕があれば、別プランを提案することもできます。
ポイント8. 暮らしの優先順位を考えておきましょう
リノベの計画段階では、あれもやりたいこれもやりたいと夢が広がりますよね。もちろんそれはいいのですが、覚えておいていただきたいのは、自分たちの暮らしに本当に必要なものはなにかを考えておくことです。そして優先順位をつけること。
予算との兼ね合いもありますから、希望をすべてかなえられるとは限りません。そのためには優先順位の高いものから予算を割り振っていくことになります。また一度にすべてを実現しなくてもいいのではないかとも思います。第2次リノベ、第3次リノベと徐々に理想の形へ近づけていく方法もあります。そんなことも建築家に相談すれば、応えてくれるはずですよ。
ポイント9. お金のことで、駆け引きをするのは禁物です
悪徳リフォーム業者の話題などを聞くと、自分はだまされないぞと身構える人がいるかもしれません。しかし建築家は建主と施工業者の中間にいるニュートラルな立場の人間です。工事費の見積もりなどについても適正に判断し、上手にコストコントロールしてくれるはずです。
また施工業者は見積もりに入っていない項目をサービスしてくれることもありますが、不信感を持って対応していれば、そんなサービスも受けられません。とくに、お金に関するやりとりはデリケートなもの。包み隠さず相談して、上手にコスパのいい工事をしてもらいましょう。事前に良好な信頼関係を築いていれば、そんな心配も杞憂で終わりますよ。
ポイント10. 正直なところ、建築家に依頼しないほうがいい人も
今はたくさんのリノベ会社があって、便利なシステムで運営されていることも多いようです。しかし、建築家のリノベーションはわかりやすいパッケージではありません。ある程度、時間も手間もかかると思ったほうがいい。プランも予算も含めて、建築家と二人三脚で進めていくものです。
ときには不測の事態が起こったりするかもしれません。そんなときでも楽しみながら、竣工に向かって進んでいける人は建築家に依頼するのが向いていると思います。しかし不信感を持っていたり、そのプロセスが面倒だと思ったりする人は、建築家とのリノベーションは向いていないかもしれません。要は合う人と合わない人がいるのです。自分はどのようなタイプなのかを冷静に判断し、後悔しないリベーションにしてくださいね。
●教えてくれた人/廣部剛司さん
1968年神奈川県生まれ。日本大学理工学部海洋建築工学科卒業後、芦原建築設計研究所を経て、'99年に廣部剛司建築設計室設立。2009年に株式会社廣部剛司建築研究所に改組。日本大学理工学部建築学科非常勤講師。近著に『世界の美しい住宅』(エクスナレッジ刊)がある