東日本大震災から、今年で10年。大地震への対策は、家や家族を守るために欠かせない要素であり、日本の住宅に求められる基本条件でもあります。そこで今回は、住宅生産団体連合会による監修のもと、地震に強い家づくりの基礎知識について解説していきます。「構造や工法」「地盤」「制震と免震」「建材や部材」といった観点から、幅広く学びましょう。
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構造・工法の基本を知る。重要キーワードは「耐震性」「耐力壁」地盤について学ぶ。調査の結果改良工事が必要になることも「制震」「免震」で建物のダメージを軽減。一方、コストにも注意を建材・部材は、使い場所によって選ぶ基準の検討を耐震性能の等級によって地震保険料が割引に構造・工法の基本を知る。重要キーワードは「耐震性」「耐力壁」
地震に負けない家をつくるためには耐震性を高める。注意すべきは、耐力壁のバランス
地震に負けない家づくりで大切なのが、地震の発生によって起こる横揺れ(水平方向)の力に抵抗できること。そのためには、家の重さを支え、地震による横からの力に耐える役目を担う「耐力壁」が重要な要素になります。
例えば、上のイラストのように、木造軸組工法であれば、筋交いや構造用合板などを柱や梁に留め付けたものが耐力壁に。鉄骨造(S造)のブレース構造も、同様に筋交い(ブレース)を入れます。2×4工法(枠組壁工法)や鉄筋コンクリート造(RC造)の壁式構造では、壁自体が耐力壁に。一方、鉄骨造や鉄筋コンクリート造のラーメン構造は、耐力壁がなくても、しっかりと柱と梁を接合して建物を支えます。このように、工法によって耐力壁が異なることを覚えておきましょう。
耐力壁は、家の広さや形状などによって一定量以上を設けることが義務づけられていますが、重要なのは、それらをバランスよく配置すること。バランスが悪いと、あらゆる方向からくる地震の揺れにより建物の変形・損壊を引き起こすことも。設計時にしっかり計画しておくことが肝心です。
ハウスメーカーの取り組み例
設計・施工会社の中には、独自の工法を持つ会社もあります。ここではその一部をご紹介。
セキスイハイム「ボックスラーメン構造」
鉄骨の柱と梁をボックス型に組んだユニットを、上下左右に連結させて一体化。地震や台風などのエネルギーを構造全体に分散させて地盤に逃がします。粘り(ユニット構造体)と強度(高性能外壁)を併せ持ち、躯体そのものが耐震性を発揮するため、補強装置なども追加する必要がありません。
大和ハウス工業「グランウッド構法」
オリジナルの接合金物を採用し、柱や梁などの構造材は100%国産材を使用しています。また、基礎には、立ち上がり部と底部に継ぎ目のない丈夫な「シームレス一体スラブ基礎」を採用。柱・梁による軸組みや複合部の強度、面材を用いた独自の耐力壁、剛床、耐力屋根など、各部に工夫が施されています。
積水ハウス「シャーウッド構法」
確かな強度を計算できる集成材を、独自の構造用金物でつなぐ「MJ(メタルジョイント)接合システム」を採用。さらに、基礎と柱を直接結ぶ「基礎ダイレクトジョイント」を用いて、接合部の強度不足という、木の住まいの弱点を克服しています。巨大地震の地震波による、全方向からの力に対応します。
エヌ・シー・エヌ「SE構法」
強度が高く品質の安定した構造用集成材と、独自に開発した金物やボルトで断面欠損を抑え、強固に接合。柱脚金物で基礎と柱を連結させることで、地震による柱の引き抜きを防ぎます。また、全棟において構造計算を実施。地震などの自然災害に対する建物の強度を、事前に数値で確認できます。
地盤について学ぶ。調査の結果改良工事が必要になることも
まずは地盤調査、必要なら地盤改良工事を。地盤と建物をつなぐ基礎にも配慮!
せっかく頑丈な家をつくっても、地盤が弱ければ地震によって家が傾いてしまうことも。土地の強さを知るためには、地盤調査が必要になります。方法はいくつかありますが、戸建て住宅で一般的なのが「スウェーデン式サウンディング試験(スクリューウエイト貫入試験)」(イラスト参照)。地下約20mまで調査でき、精度の高い試験結果が得られるうえに低コストなのが魅力。
地盤調査の一例
スウェーデン式サウンディング試験(スクリューウエイト貫入試験)
先端がスクリュー状の鉄の棒の器具を地面に対して垂直に立てて重りを載せ、ある一定の深さに到達するまでの時間などで、地盤の固さを測る方法。敷地の数か所で調査します
また3~4階建て住宅では、より高性能な調査ができる「ラムサウンディング試験」を採用するケースも増えています。
地盤改良・補強工事
調査結果で十分な地耐力がないと判明した場合は、地盤改良が必要に。方法は3種類あり、強固な地盤(支持層)までの深さで異なります。
戸建て住宅で主流なのが「柱状改良工法」。支持層まで何本も穴を掘り、凝固剤を埋めてつくった柱で建物を支えます。この工法で、支持層までの深さが10m程度までのケースに対応可能。
また、良好な地盤が地表近くにある場合は、「表層改良工法」を採用することもあります。現場で表面の土に凝固剤を混ぜ、ローラーで締め固めて地盤を改良しますが、「柱状改良工法」と大きなコストの違いはありません。
支持層までの深さが15mある場合は、鋼管杭を埋め込む「鋼管杭工法」。しかし、コストがかかるため、戸建て住宅でこの工法を採用するケースはあまりありません。
地盤改良の必要がない場合でも、考えなければいけないのが建物の基礎。一般的な「布基礎」で弱い場合は「ベタ基礎」の採用を。傾斜地を埋め立てた地盤などでは不同沈下(建物が傾いて沈むこと)することもあるので、基礎選びは施工会社としっかり相談を。
建物と地盤をつなぐ基礎の種類を紹介
- 布基礎:鉄筋を入れたコンクリートで、T字を逆さにした形状の立ち上がり部をつくり、建物を点で支える構造
- ベタ基礎:鉄筋入りのコンクリートで、立ち上がり部と床を一体化させた構造。建物を大きな面でしっかりと支えます
「制震」「免震」で建物のダメージを軽減。一方、コストにも注意を
制震構造や免震構造を採用して、地震の揺れによる建物へのダメージを軽減することも
耐震・制震・免震の違い
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- 耐震:筋交いや壁などで構造体を補強し、建物全体で地震の揺れに対応。戸建て住宅での採用率が高い
- 制震:構造体に組み込んだダンパーなどの装置で地震の揺れを吸収。建物にかかる力を軽減します
- 免震:基礎に取り付けた積層ゴムなどの免震装置によって、建物に伝わる前に地震の揺れを吸収
地震に負けない家づくりのためには、建物や地盤を強くする一方で、「制震構造」や「免震構造」を取り入れるのもひとつの手段です。これらの採用によって、地震の揺れによる建物のダメージを軽減できます。
「制震構造」は、地震の揺れを小さく抑える構造。建物に取り付けた制震装置が、地震のエネルギーを吸収・変換し、建物にかかる地震エネルギーを和らげてくれるのです。具体的には、基礎を固定し、建物の壁内に制震装置をバランスよく取り付けていきます。装置の多くは、ゴムなどを利用して振動の伝わりを和らげる「ダンパー」タイプです。ゴムのほかにオイル(油圧)や鋼材(金属)を用いたものもあります。設計・施工会社の中には、オリジナルの構法を用いる会社も。
一方、「免震構造」は、建物と基礎の間に設置した免震装置で建物と地盤面を切り離し、地震の揺れが建物に直接伝わらないようにする構造です。「鋼球」の転がりを利用する方法や、薄いゴム板と鋼板を交互に重ねて接着した「積層ゴム」を用いる方法などが一般的。採用する場合は、「免震構造+建物」となるので、コスト高になってしまう傾向があります。
いずれを採用するにしても、設計・施工会社を選ぶ際に、対応が可能か確認しておきましょう。
ハウスメーカーの取り組み例
制震構造を取り入れた家づくりをサポートするハウスメーカーも。ここではその取組の一部を紹介。
パナソニック ホームズ「制震鉄骨軸組構造(HS構法)」
高層ビルなどの建築で採用される制震技術を、新たに住宅用として開発し、建物の強さと間取りの自由度も高めた構造。要所の壁には、斜材部に「座屈拘束+低降伏点鋼」を使用した耐力壁「アタックフレーム」を採用し、地震の揺れを低減。地震エネルギーによる繰り返しの引っ張りや圧縮の両方で耐力を発揮します。
旭化成ホームズ(HEBEL HAUS)「ハイパワード制震ALC構造」
太く短い斜材と横材を組み合わせたものを、2段に配した制震フレーム「ハイパワードクロス」を採用。耐震性のほか、建物の倒壊を防ぐ特性を併せ持ちます。また、フレームの中心に用いたハイテク素材「極低降伏点鋼」は、通常の鋼に比べて粘り強く、地震エネルギーを吸収しつつ建物の損傷を抑える性質があります。
建材・部材は、使い場所によって選ぶ基準の検討を
進化し続ける建材・部材。それぞれの特徴を知り、安全性とデザイン性を両立できるものを選んで
建物を構成する建材・部材は、地震により大きな力が加わる場所なので気を配りたい部分。屋根材や耐力面材、木造の柱や梁を緊結させる耐震用金物、制震や免震の装置など様々ありますが、どれも年々進化しています。
建材・部材などの一例
屋根材は、軽いほうが地震の衝撃や揺れによるずれ・落下を抑え、家の重心を低く揺れにくくできるため、軽量な屋根材が多く登場しています。近年の大型台風などの被害を受け、国土交通省が屋根瓦を釘やビスで一枚ずつ打ち留める方向でガイドラインの見直しを検討。これに先立ち、屋根メーカーでは、すべての瓦を釘やビスで留める施工に変えたところもあります。
また、構造材で目を離せないのが、最近注目されている木質系材料の「CLT」(Cross Laminated Timberの略)です。鉄筋コンクリートと比べて軽量で、大判のパネルとして利用することで耐震性を確保できます。
どの建材・部材を選ぶにしても、デザインとの両立など、使う箇所によって選ぶ基準は様々。よく検討しましょう。
ひき板(ラミナ)を並べた層を、板の方向が層ごとに直交するように重ねて接着した大きなパネル(写真提供:日本CLT協会)
耐震性能の等級によって地震保険料が割引に
最後に、話は少し変わりますが、地震保険について簡単に説明しておきましょう。住宅の耐震性能の等級によって、地震保険料が割引になることを知っておきましょう。
耐震等級 | 求められる性能 |
等級1 | 極めてまれに(数百年に一度程度)発生する地震等による力に対して建物が倒壊、崩壊等しない程度(建築基準法レベル) |
等級2 | 建築基準法レベルの1.25倍の耐震性 |
等級3 | 建築基準法レベルの1.5倍の耐震性 |
上の一覧表で分かるとおり、耐震性の等級には3段階あります。家をつくる際に、住宅性能表示制度を使って建設住宅性能評価書を取得すると、等級に応じて火災保険に上乗せする地震保険料が10~50%割引に。
例えば等級3の家をつくれば、高い耐震性を実現するだけでなく、地震保険料が半額になるといううれしいメリットが!
取材協力・監修/一般社団法人 住宅生産団体連合会 イラスト/柏屋コッコ