横浜に暮らす妻の母と同居するため、築50年経っていた家をリノベーションしたTさん夫妻。細かく分かれ薄暗かった空間は見違えるほどの明るさと広がりを得て、さらには家族がくつろげるテラス付きの美しい庭も実現しました。
すべての画像を見る(全16枚)階段を中心に回遊性を持たせ、LDKを一室空間に
50歳頃から移住を考えていたTさんは、定年後、山梨で働きながら畑仕事にいそしむ生活をスタートさせました。ところが移住したその矢先、妻の父が亡くなり、母がひとりで暮らすことに。そこでTさん夫妻は築50年の家をリノベーションし、母と同居する計画を立てることになりました。
家はあちこちが傷み、雨戸も開かない状態で90歳の母が暮らすには厳しい環境です。
「父が残した家なので、母が安心して暮らせるようにしたい。最も気になっていたのは、細かく分かれていて薄暗かった空間です。使わない部屋も多くあったので、それも整理しないと」(妻)。
T邸のリノベーションを任されたのは、横浜にも店舗があるスタイル工房。
ガラリと変えるため、まずは1階南側に配されていた和室をなくしてリビングとDKを一体化。階段もリビングに取り込んで、玄関や水回りに行き来しやすい回遊動線を提案しました。
階段を上る手前、右手にもLDKにつながる入口があります。写真左手には洗面、浴室が配されているので、2方向からアクセスできるのです。
「隅々まで光も届き、どこにいても居心地がよくなりました」(妻)。
▼家族構成
60代夫婦+妻の母90歳
▼リノベーションした理由
妻の父が亡くなり、90歳の母がひとりで暮らすことに。そこで山梨に住んでいた夫妻は、横浜で母との同居を決意。
▼住宅の面積やコスト
延床面積:107.73㎡(32.65坪)
間取り:2LDK
既存の梅や柿の木を残しつつ、庭を生き返らせる
母が望んだのは、手に負えなくなった庭の管理をしてほしいということでした。
鬱蒼としていた庭は、既存の梅や柿の木を残しつつ大幅に整理。そして、家族が庭でもくつろげるようにと夫がテラスを設置し、周囲に芝生を植えました。芝生を張ったのは、「(Tさん夫妻の)孫が来たときに裸足で遊べるように」との思いも込められているそうです。
また、LDKと母の部屋は、庭にすぐに出られるようにウッドデッキを設けています。
さらにキッチンからも、庭に直接出られる勝手口を設けました。庭の一角には家庭菜園もあり、採れたての野菜を摘みにも出やすいそうです。
美しくなった庭でのひとときに、母も自然と笑みがこぼれます。
「庭が生き返ったようです。家族が庭で過ごす時間も増えましたね」(妻)。
2階の夫妻の寝室。奥にはウォークインクロゼットも設けました。この部屋はバルコニーが広く取られており、ここからも庭を望むことができます。
床には展示スペース。化石コレクションをいつでも眺められる
T邸で特徴的なのは、化石コレクションの展示スペースがあること。床に埋め込む形で、上からコレクションを眺められます。ガラスは、滑り止めのドット付き強化ガラスを採用しました。まるで博物館のような空間。
魚や海藻の化石は、タイル貼りの壁の中に、さりげなくはめ込みました。
これらは、仕事の都合でブラジルに住んでいた際に夫がコレクションしていたもので、大切に持ち帰ってきたのだそうです。
「今までは飾る場所もなく、納戸に眠っていたものが日の目を見ましたよ」(夫)。
展示しているのは、回遊できる階段のリビング側です。子どもが立っているのを見ると、かなり大きなスペースであることが分かります。インテリアとしても際立つアイデアですね。
個性的な2階トイレもご案内しましょう。「砂漠の中のトイレ」をイメージしたというトイレは、床のフロアタイルを赤土に見立て、天井のブルーのクロスは青空のようにデザインしたそうです。
玄関ホールの真っ青な扉も印象的。サッシに使われていた型ガラスを再利用したオリジナルで、こだわりのカラーは妻がリクエストしました。
住まいだけでなく庭も含めたリノベーションにより、家族に合った暮らしを手にしたTさん家族。細部に渡るデザインのこだわりも見応えが十分です。
さて、山梨の家は?と思われた方も多いかもしれません。
現在Tさん夫妻は畑のある山梨と横浜のこの家を行き来しながら、充実した毎日を送っているそうです。
設計・施工/スタイル工房
撮影/八杉和興(本誌)
画像提供/スタイル工房
※情報は「住まいの設計2020年4月号」取材時のものです。