仙台市の住宅街に新築した、Nさん夫妻と2人の娘が暮らす住まい。グレーを基調にしたほの暗い空間に、南米やアフリカなど国籍も時代も多様な家具調度品が調和しながら点在しています。独特のコーディネートは、すべて妻の手によるもの。住まいの一角には、妻の夢であったギャラリー空間が併設されています。
月に1階、玄関土間のギャラリーがオープン
すべての画像を見る(全13枚)民芸好きの妻には、自身の収集品以外にもうひとつ膨大なコレクションがありました。世界各国を旅しながら民芸品を収集していた伯父が突然亡くなり、同好の士であった妻がその遺品を譲り受けたのです。
とはいえ住まいの敷地はそこまで広くはなく、4人家族ゆえ空間に余裕があるわけではありません。
家の建て替えにあたっては「無理にギャラリーをつくらなくてもいい」と考えていましたが、設計を手がけた建築家の手島浩之さんは「ぜひつくった方がいい」と玄関土間とギャラリーを兼ねる案を提案。そこから話が進み、世界の民芸が独自の空気を紡ぐギャラリー併設住宅が完成したのです。
こちらは住まいの西側外観。木造ですがセメント系下地材を塗った壁や木毛セメント板の軒裏のおかげで、まるでRC造のような佇まいです。ギャラリーのオープン時のみ、西側の大きな木製引き戸が開放されます。
こちらがギャラリー空間。現在は月1回3日間、様々なジャンルの作家を招いて作品展を開催しており、毎回盛況なのだそう。
グレーのリビングを彩る世界の民芸
デッキのある南の開口から明るい光が差し込む中2階のリビングは、この住まいを象徴する空間。床・壁・天井すべてグレーの空間に、世界各国の古い家具や調度品が映えます。
建て替えを機に購入した念願の松本民芸家具の3人掛けウィンザーチェア(写真左)や、伯父の遺品でインド製のキャンドルスタンド(写真右)。
存在感のあるイギリス製サイドボードの上には、伯父の形見のメキシコの民芸品をシーズンごとテーマを変えてディスプレイしています。
階段上のコーナーの壁に掛かっているのはモロッコの馬飾り。下の家具の上にはメキシコの民芸品がにぎやかに並んでいます。
アンティークの照明器具は前の住まいでも使用していたものなのだそう。
床のレベル差で公私をゆるやかにゾーニング
手島さんのプランは単に玄関土間とギャラリーを兼ねるだけでなく、中2階にリビング、さらに半階上がった2階に子ども室を設けるなど、レベル差をつけてギャラリーと住まいをゆるやかに分けています。そのおかげで、ギャラリー会期中も家族はプライバシーを保ちながら暮らすことができるのです。
さらにリビングの床下には大きな収納スペースを確保しているので、妻の収蔵品もすっきり収まっています。
リビングダイニングから半階下がった1階のキッチンは、ステンレスで統一した機能的な空間。中庭に面しているので明るさも十分です。
キッチンから一直線に並んだウォークインクロゼット、ホール、ギャラリーを介して外まで見通すことができます。
「キッチンで作業しながら、ここからギャラリーを見るのがとても好きです」と妻。
リビングダイニングから短い階段で上る18歳の長女と11歳の次女の部屋は低い壁のみで仕切り、家族がゆるやかにつながるオープンな間取りに。
間仕切り壁や間仕切り家具は、格好のキャットウォークなのだそう。
書斎から1段上がった寝室は天井が高く、低い位置の窓から中庭が見えるほどよい明るさ。上部の右手前は子ども室とつながっています。
「この家、ほんとによくできているんです。会期中もリビングからガラス越しにギャラリーの様子がのぞけるし、住んでみて気づくことがいろいろあります」と妻。
愛する民芸品を楽しみながらギャラリーを通じて街ともつながる、美しい住まいです。
設計/都市建築設計集団/UAPP
撮影/山田耕司(扶桑社)
※情報は「住まいの設計2019年2月号」取材時のものです