「古い家を自分たちで手を入れて暮らしたい」。そんな思いから始まった早川さん夫妻の家探し。見つけたのは、静岡・森町の築120年の古民家です。土壁に漆喰を塗り、床板と天井を張り直し、耐震や断熱工事を施しました。築120年の古民家は見違えるほど、素敵に快適に。そして妻は農家に、夫は珈琲屋に転身。古い家のセルフリノベの夢をかなえ、新たな人生がスタートしました。

目次:

築120年の古民家をセルフリノベ土いじりが好きだった妻は田んぼを借りて農家に夫は自家焙煎の珈琲屋をオープン!

築120年の古民家をセルフリノベ

静岡県西部に位置し、〝遠州の小京都〞と呼ばれる森町。小高い山々に囲まれ、そのすそ野に茶畑が広がる自然豊かな町です。ここに移住を決め、暮らしている早川さん夫妻。

そのきっかけはなんだったのでしょうか?

外観
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夫の直之さんは、森町の西隣の磐田市出身で、福島県出身の妻の幸恵さんは、森町の南に位置する袋井市の会社に勤めていました。
幸恵さんが家を探し始めたのは2007年。会社の寮を出なければいけなくなったことがきっかけでした。

「家が欲しいと思ったのですが、新しい家には興味がなく、古い家を自分たちでリノベして暮らしたいと思っていました。たまたま古民家を専門に扱う不動産屋に出合い、築120年ほどのこの物件を紹介してもらったんです」(幸恵さん)。

内観

古民家は大きなものが多いけれど、ここはちょうどいい大きさだったことも決め手です。
リノベーションは、おもに幸恵さんが担当しました。仕事をしながら週末ごとに通い、土壁に漆喰を塗ったり、床板や天井を張り直したりと大奮闘。

直之さんは、はずした鴨居が珍しいクリの木だったので、それを使ってキッチンを製作。「元のキッチンのステンレスの天板を生かそうと思い、クリの木で脚をつくって天板をはめ込みました。10年以上使っていますが壊れません(笑)」。

設計図

当初まだ結婚していなかった二人ですが、半年ほどかけて改修を行い、住めるようになったところで入籍。そして移住しました。

土いじりが好きだった妻は田んぼを借りて農家に

移住後もそれぞれ会社勤めを続けた夫妻ですが、直之さんが東京の会社に転職したことで、いったん森町を離れることになりました。

畑

「2年勤めましたがどうも会社と合わなくて、これから自分はどういうスタンスで仕事をしていこうか考えているとき、東日本大震災が起きたんです」(直之さん)。

「都会の生活も満喫したし、そろそろ戻りどきだね」と夫婦で話し合って森町で再び暮らすことにしました。

大根収穫

戻ってから仕事をどうするかが問題です。仕事を探そうとハローワークに行った幸恵さんは、職業訓練校の農業科に興味を持ったといいます。そして半年間、農林大学校に通うことに。

農作業

1年の研修を経て、2014年に農家として独立。田んぼ3反(900坪)を借りて始めた農業は、今では10反(3000坪)にまで広がったそうです。
「もともと土いじりが好きだった」と幸恵さんは話しますが、3000坪というその規模の大きさには驚きますね。

トラック

なにを作っているのかといえば、夏は森町の特産品であるトウモロコシ、冬は紅心大根が中心。ファーマーズマーケットなどで販売しているそうです。

幸恵さんの日課は、朝は4時に起き、仕分け作業や洗濯などの家事をすませてから畑へ向かいます。「いいものをつくろうと思えば、いくら努力をしてもキリがない。だから、農業は面白いですね」(幸恵さん)。

夫は自家焙煎の珈琲屋をオープン!

看板

妻が農業を始めた頃、直之さんは会社勤めをしながら、コーヒーの勉強を始めました。「実は私、以前はコーヒー好きではなかったんです。妻が大のコーヒー好きで、一緒においしい店を探し歩くうちにはまってしまっていました(笑)」と直之さん。

焙煎

コーヒーについては初心者だった直之さんは、東京でよく行った自家焙煎珈琲の名店「カフェ・バッハ」でセミナーを行っていることを知り、仕事をしながら3年間通って、理論からじっくり学んだそうです。

店内

そして2017年、自宅を再度リノベーションして「自家焙煎珈琲屋 百珈」をオープン。耐震工事や断熱工事も施し、お客さんが快適に過ごせる空間を実現しました。耐震補強工事の助成も受けられたそうですよ。

焙煎機

「まずは地域の人たちに知ってもらわなくては」と、オープン前から町のイベントなどに積極的に出店。おかげで徐々に近隣のコーヒー好きが集まるようになり、常連さんも増えてきました」(直之さん)。

焙煎2

直之さんの1日も朝早くから始まります。
「夜、豆の選別をして、焙煎は朝。暖機運転や冷却にも時間がかかるので、早朝から始めます。焙煎の仕方で味や香り、口当たりが変わってくるんですよ」。

コーヒー

注文を受けてから豆を挽き、ハンドドリップで丁寧に淹れます。「その豆の味わいを楽しんでほしい」との思いから、ストレートのみでブレンドは提供していないそう。お店に入るとその瞬間から、コーヒーのいい香りに包まれるのでしょうね。

コーヒー淹れる

初めから農業や珈琲屋を始めるつもりではなかったという夫妻ですが、それぞれが自分に合う、やりがいのある仕事を見つけて暮らしは180度変化。春はお茶の木の芽吹き、秋は紅葉など、あふれる自然を肌で感じ、四季ごとの地域の行事なども積極的に参加しています。地方での暮らしを存分に楽しむ早川さん夫妻です。

自家焙煎珈琲屋 百珈

撮影/山田耕司
※情報は「住まいの設計2019年4月号」掲載時のものです