吉田さん夫妻が営む小さな和菓子屋「果子 うさぎや」は、切妻屋根の和モダンなデザイン。のどかな地域のシンボリックな存在になっています。3人の子どもを持つ吉田さん夫妻は、以前より自宅に店舗を併設したいと考えていました。思いをかなえた「職住近接」によって、仕事と子どもたちとの暮らしはどのように変わったのでしょうか。。

目次:

子育てと家事、仕事を両立する難しさに直面家と店舗を親子のように振り分け「素材」をテーマにしたやさしい空間

子育てと家事、仕事を両立する難しさに直面

エントランス
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吉田さん夫妻が営む「果子 うさぎや」があるのは、栃木県佐野市の郊外。のんびりとした風景が広がる町の一角にあります。とちおとめを使ったいちご大福、どら焼き、団子、地元の伝統的な「しんこまんじゅう」等々、工房併設の建物で、夫妻が毎朝心をこめて手づくりしています。

夫が和菓子の世界に飛び込んだのは20歳のときでした。様々な店で修業を積み、結婚を機に、妻の実家がある佐野市田沼町へ拠点を移して仮店舗で自身の店を始めました。

仕込み

しかし、和菓子の仕込みは朝が早い。日が昇る前から小豆を煮てあんこをつくり、開店に間に合うように数種類の商品を用意します。妻も昼間は、仕込みをしたり接客をしたりとお店の仕事を手伝います。そしてその合間をぬって、幼稚園に通う子どもの送り迎えや家事をこなしていたそうです。
「やはり、仕事場と家が離れている負担は大きかったですね」としみじみ語ります。

そんな厳しい状況を経たからこそ、職住近接の住まいを夫妻は求めました。そこで土地探しからスタート。人目につきやすい場所であり、駐車スペースを取れることなどを条件に探し、幹線道路沿いの角地を入手したのです。

家と店舗を親子のように振り分け

設計は建築家の飯田亮さんに依頼しました。
「素材の持ち味の生かし方、長年暮らしても飽きのこないシンプルなデザインなど、飯田さんの作風にひと目ぼれしました」(夫)

外観

飯田さんは、店舗と住居を棟で分けるプランを提案。店舗は平屋、住居は2階建てにして建物をずらし、凸凹形状という目を引く外観に。その結果、外観は親(住居部)と子(店舗部)のようなたたずまいとなりました。
「ありきたりのデザインではなく、丁寧なつくりの中に程よい魅力と個性がある。そんな建物にしたかったんです」(夫)

店内

店内は白い塗装壁×杉板天井のナチュラルな仕上げ。そこに真ちゅうのペンダントライトや、カラフルなタイルを用いたカウンターを配して、和モダンにまとめています。

店内カウンター

お店の目印は、店名をモチーフにした月+ウサギの看板とのれん。こだわりの和菓子は、無添加・手づくり・やさしい味をコンセプトに、ひとつひとつ丁寧につくられています。

和菓子

「素材」をテーマにしたやさしい空間

では、自宅の方はどうなのでしょうか。
内装は、夫妻が長年大切にしてきた「素材」をテーマに、床は杉無垢フローリング、壁と天井は紙クロスの上に大理石粉を主成分とするフェザーフィール塗装を施して、自然素材の持ち味を堪能できる空間に仕上げました。

リビング

忙しい日々の中でも家族で集う時間は大切にしたいと考えて、LDKは完全プライベートな2階に配置。子どもたちは、13歳を筆頭に、9歳、7歳と3人。リビングにはいつも子どもたちの声が響いているようです。

床座スタイルでとても落ち着いた雰囲気。余計なものは置かず、とてもシンプルな空間ですね。座面の低いソファは飯田さんがデザインしたオリジナルとのことです。

12坪と小スペースではありますが「かゆいところに手が届く、絶妙な距離感が逆に心地よくて生活しやすいです」と夫。
切妻形状の天井に組み合わせた柱には、"家族のより所"としての意味を持たせました。窓には、よしずを用いた和風網戸を設置するなど、細部にもこだわっています。

キッチン

天板に木を用いたオリジナルのオープンキッチンがこちら。コンパクトですが調理→配膳→後片付けの動線が短くてすみ、忙しい日々の家事ストレス軽減に役立っています。

玄関と書斎

1階には、個室や水回りを配置。
子ども部屋とは別に、勉強机を造作した書斎スペースを設けているので、兄弟で並んで宿題をすることも可能です。

玄関ですが、店舗と住まいの動線を分けるため、家族用は建物の裏に設けました。この玄関は工房にも直結しているため小麦粉などの材料の搬入口としても利用しています。R形状の間仕切り壁がやわらかな雰囲気を演出していますね。

ディスプレイ

和菓子は店頭だけでなく、道の駅やスーパーへの卸しも並行して行っているそう。
このように忙しい毎日を送る夫妻ですが、仕事場と住まいが一体となったことで、「仕事をしながら子どもたちの様子が分かるので、家族で一緒の時間を過ごしているんだなと思えます」と妻は話します。理想の環境を手にして、仕事も生活もより充実しているようです。

設計/飯田亮建築設計室
撮影/山田耕司
※情報は「住まいの設計2019年4月号」取材時のものです