小さくても、自分たちらしいカフェを開きたい――。そんな思いを抱いて、土地を探すこと5年。和田さん夫妻が見つけたのは、茅ヶ崎駅から徒歩10分、おしゃれな雑貨店や飲食店が並ぶ大通りから小道を入った静かな住宅街の一角でした。
カフェの名前は家族のイニシャルを組み合わせてつけた
すべての画像を見る(全16枚)完成したカフェは、庭の豊かな緑やガルバリウム鋼板を乱張りにした外壁が印象的です。
店の名前は「nokka」。
夫妻と両親の名前のイニシャルを組み合わせた造語ですが、「フィンランド語では『くちばし』を意味するそうです」と妻。
北欧テイストにまとめた店内に、ぴったりと合うネーミングです。
デメリットと思いがちな三角形の敷地には意外なメリットが
敷地は25坪と小さく、三角形という変形地でしたが「希望どおりの環境でしたし、日当たりも風通しもよく、ここしかないと思いました」と和田さん。設計は、以前から交流のあった木津潤平建築設計事務所の木津潤平さんに依頼しました。
「カフェ兼住居の建物で、カフェには緑豊かな庭があり、住居部分はなるべく狭さを感じないように」という希望を伝え、カフェハウスづくりはスタートしたそうです。
夫妻の要望を受けた木津さんは、建坪9坪のコンパクトな建物で、1階はカフェ、2階は住まいというプランを提案。庭はデッドスペースとなりがちな鋭角部分を利用してつくり、両開き窓やガラス入りの扉を通して、カフェから緑を眺められるようにしました。
「三角形の庭は、同じ面積の矩形の庭よりも奥行きと広がりを感じることができます」と木津さん。
トネリコやオリーブなどの木々が風に葉を揺らす様を眺めていると、まるで森の中にいるように感じられ、リラックスできます。
カフェ部分の高い天井は、2階の床をスキップフロアにして1段上げることで実現。2階からの光を取り込むように上部に窓をつくり、明るさと広がりを得られるようにしました。また、カフェ内の壁は漆喰、床はラフなモルタル仕上げになっていてます。
「お二人の穏やかな人間性や暮らしぶりがそのまま表れるように、温かみのある素材感を楽しむ空間にしました」と木津さん。
調理スペースは床を1段下げて、カウンターに座った人と目線を合わせるように配慮しています。
コンパクトな調理スペースは、動線に無駄がなく作業効率がスムーズです。
カフェでは、カフェインフリーの飲み物とビオワイン、おつまみなどを提供しています。
地元で有名だった雑貨店「サザンアクセンツ」から譲り受けた家具を置き、ワインの空き瓶を彩りのアイテムに。
営業がない日曜日、夫妻はカフェでブランチやお茶を楽しむそうです。「生活の場である2階と違って、ここは、私たちもゆっくりと過ごせるくつろぎの場所なんです」
ふたり暮らしにちょうどいいコンパクトなワンルーム
住まいの玄関は、南側に設置。階段の段差を利用して靴の収納もしています。右の写真の左側は、カフェと住居で共有するトイレの扉です。
手洗いの洗面ボウルや水栓は、デザインにこだわって選んだものです。
「ふたり暮らしなので、住まい部分はワンルームで十分」という夫妻。2階はワンルームとしながらも、ダイニングと寝室の床をスキップさせて空間を緩やかにゾーニングし、一室空間のあちらこちらに居場所があるプランを採用しました。寝室の床を70㎝上げてできた段差には半透明の窓を設置することで、1階に光を届けています。
限られた面積でも広がりを感じられるように、南側には天井までの大きなガラス窓を設置。キッチン上部はロフト収納になっています。
また、2階にもカフェと同じように温かみのある素材を採用。ダイニングの床は桜、寝室の床はサワラを使い、リラックスできる空間に整えています。
敷地の南側は、ハーブ専用のミニ菜園です。ミント、フェンネル、タイム、バジルなど、カフェ用メニューに使うものを栽培しています。
左の写真は、妻のお気に入りで、ぬいぐるみ作家・金森美也子さんの作品です。妻はオリジナルブランド「LOOP LOUPE」を持ち、右の写真のような手づくりアクセサリーの販売もしています。
こだわりを叶えつつも予算内で収められるように、カフェの漆喰壁や2階の床のワックス塗りは、夫妻でD.I.Y.もしたそうです。こうしたコストバランスも図りながら、自分たちの“好き”をちりばめた空間を手にした和田さん夫妻でした。
設計/木津潤平建築設計事務所
撮影 中村風詩人
※情報は「住まいの設計2017年3-4月号」取材時のものです