昨日まで元気だった夫が急死。
いきなり言われても想像すらできない事態ですが、「まさか」の事態はだれの身にも起こり得ることです。

ESSEなどさまざまな雑誌で活躍する、ライターの佐藤由香さん(52歳)は、新型コロナウイルス禍で緊急事態宣言措置が実施されていた今年の5月に、単身赴任中だった当時56歳の夫が突然死するという経験をされました。

今回は、夫が亡くなり半年以上が過ぎ、初めて迎える年末に感じた「夫が生きているうちにしておけばよかった、しておいてよかった」ことについてつづっていただきました。

「なんでもない日常こそが大切」ひとりになって改めて感じた思い

テーブルにミカンなど
昨年までは夫とふたりで過ごしていた年末に感じること(※写真はイメージです)
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新型コロナウィルスの感染拡大予防で、今年の12月はいつになく静かな年の瀬になりました。
自宅で家族とともに過ごす人も多いと思いますが、私は、夫が5月に単身赴任先で突然死(死因は致死性不整脈の疑い)してしまい、一緒に過ごす家族がいなくなってしまいました。

子どもがいなかったので、50歳を過ぎて突然独り身に逆戻りです。

夫は10年近い単身赴任だったので、ひとり暮らしはそれなりに慣れていたはずですが、生きていて遠くにいるのと、いなくなって永遠に会えないのではまったく違う。「喪失」の悲しさ、つらさは想像以上に重く、とくに12月は夫の不在を痛切に感じました。

年賀状に入れる写真はなににするか、年末はどこに行くか、お歳暮の送り先や、お正月に買うごちそうはなににするか。そんなたわいないことを話す相手が、もういないのです。

●結婚式の録画を見て笑い転げたかった

DVD2枚
結婚式のDVD

まさか56歳で突然いなくなるなんて思っていないから、やり残したこともたくさんありました。そのひとつが「思い出を話すこと」です。

20年の結婚生活でたくさんの思い出をつくったのに、振り返ることはしていなかった私たち。

たとえば、結婚式。
当時、友だちが撮ってくれたビデオテープはデッキがなくて見られないので、数年前にDVDに焼き直したばかりでした。いつか一緒に見ようと思いながら、その時間をつくらずにいたことが悔やまれます。

義父のスピーチ原稿と新婚旅行先から送ったハガキ
夫の実家で取ってあった、義父のスピーチ原稿と新婚旅行先から送ったハガキ

そこには元気な頃の両親が映っていて、きっと夫も感慨深く見たことでしょう。夫の実家には、義父のスピーチの下書きや、新婚旅行先から送った絵ハガキまで逐一取ってあり、見たらきっと懐かしかったでしょう。

子どもがいる夫婦でも、子どものビデオを撮るだけ撮って、見返さない人は結構いるかと思いますが、夫婦のどちらかが欠けると、子どもの成長話はできなくなってしまいます。同じものを見て語り合えるのは配偶者など限られた人だけ、という事実を、夫が亡くなって思い知らされました。

●動画で残したいのは、なんでもない普通の日

スマホを持つ女性
なんでもない普通の日の動画もかけがえのない思い出に(※写真はイメージです)

思い出といえば、動画ももっと撮っておけばよかった。それも旅行や行事などのイベントではなく、ごく普通の生活の様子。

私が思い出す夫は、大好きな麻婆豆腐をガツガツ食べている姿や、リモコン片手に寝転がってテレビを見ている後ろ姿なのです。なんの変哲もない、ただの日常なので、動画など撮るはずがないのですが、今、それが残っていたらどれだけうれしかっただろうと思います。

唯一、奇跡的に残っていたのは、亡くなる2週間前にzoomで会話したときの録画でした。4月の緊急事態宣言でzoomを使う機会が増え、テストのつもりで10分ほど録画していたのです。先日、パソコンのフォルダ整理中にそのファイルを見つけたときは本当にびっくりしました。

夫も私も、普段のままの会話。懐かしい夫の声、話し方、口グセ。

それを見ると、今でも生きているような気がしてしまいます。年齢を重ねるほどに動画を撮る習慣が少なると思いますが、たまにはこっそりとスマホで家族の普段の姿を録画してみるというのもいいかもしれません。

●これから先も楽しみたい「毎年恒例の行事」は…

夫の不在を感じるばかりの12月ですが、ひとつだけ、楽しみな行事があります。

夫と私、私の友だちと3人で毎年開催していた、12月第4日曜日の「有馬記念クリスマスパーティー」です。

コタツがあるリビング
夫、友人と3人で開催していた、毎年恒例の有馬記念クリスマスパーティー

夫は競馬が好きで、GIレースの季節になると欠かさず馬券を買っていました。最初は馬券の買い方も知らなかった私も、予想する夫の横でだんだん覚え、夫とスポーツ新聞の競馬欄を回し読みするように。有馬記念はとくに年末の大イベントという感じで、当日は朝から予想をたて、ケーキを食べながらテレビ中継を見て、大当たりした人は夜ご飯をおごるというのが
習わしでした。

今年は夫はいませんが、この恒例行事はやっていてよかった。
結婚記念日をひとりで祝うのは悲しいかもしれないけど、有馬記念は毎年あり、友だちや大勢の人と盛り上がれるので淋しくありません。そして、夫の分も予想することで、夫婦の楽しみをずっと持ち続けられる気がします。

●たわいないLINEのやり取りも楽しい思い出に

チンアナゴの話をするLINE画面
夫によく送りつけていたLINE

それからもうひとつ。ネットでおもしろいニュースがあると、夫のLINEに送りつけるのも、思い返すと楽しいひとときでした。

LINEスタンプ画面
今もときおり送信する夫へのLINE。夫が好きだったスタンプ

じつは今も、夫のLINEは解約せずこっそり送り続けています。もちろん既読はつきません。返信もありませんが、夫は生きている頃もわりと素気ない返事だったので気にしません(笑)。

生きていたら、今年の年末はどんな話をしたでしょう。
「今年の漢字一文字はやっぱり『密』だったね!」
「だろう? オレが言ったとおり!」
なんて、くだらない話をして笑っていたに違いありません。

今年も、来年も続くと思っていた日常は、私の人生の宝物になりました。皆さんも、静かな年の瀬に、家族のことを考えてみませんか? ちょっとした時間を大事にしてみませんか? いつかきっとかけがえのない大切なものになると思います。

【佐藤由香さん】

生活情報ライター。1968年埼玉県生まれ。編集プロダクションを経て、2011年に女性だけの編集ユニット「シェルト・ゴ」を立ち上げる。料理、片づけ、節約、家事など暮らしまわりに関する情報を中心に、雑誌や書籍で執筆。