6組に1組の夫婦が不妊で悩んでいるといいます。一方で、妊娠がかなっても15%とけっして少なくない人が流産を経験しています。
流産を複数回経験すると、もう妊娠・出産できないのでは…? と不安になりますが、「流産を複数回経験した不育症の方でも、70%~80%の方が妊娠・出産しているという調査結果があります」というのは、不妊治療の専門家である杉山力一先生です。詳しく伺いました。
「不育症」は原因を調べ、治療することで克服できます
妊娠初期の流産の大部分は、胎児または受精卵に偶発的な染色体異常が起こることが原因とされ、二回目の妊娠時には出産に成功される方もいらっしゃいます。
しかし、複数回の流産や死産を経験された方は、また妊娠できるのかどうか不安になることも。今回はこれらの症状をまとめて指す「不育症」について、妊娠の可能性や治療法をみていきましょう。
●「死産や複数回の流産の経験がある…」それらの症状はまとめて不育症と呼びます。
不育症とは妊娠はするものの、以下の理由により生児を得られない状態と定義されます。
(1) 流産(妊娠22週未満の分娩)を2回以上繰り返す
(2) 死産(妊娠22週以降に死亡した胎児を出産)
(3) 新生児の生後1週間以内での死亡
このとき、(1)の流産のなかに化学流産(妊娠4週未満に起こる流産)は含まれません。
不育症とは一つの病気ではなく、いくつかの症状を含めての総称なのです。
●不育症の原因って?原因別にみる不育症の治療法
不育症の原因はおもに次の4つであるとされています。
(1) 凝固異常
(2) 子宮形態異常
(3) 内分泌異常
(4) 夫婦染色体異常
ここではそれぞれの原因の詳細と、それらが原因であった場合の治療法について解説しまます。
(1) 凝固異常妊娠中に胎盤に血栓(血のかたまり)がつくられることで、胎児に栄養が運ばれなくなり、流産や死産を招くという場合があります。
血栓がつくられる原因としては、血液中の凝固因子(血液を固め、血を止める働き)に異常が生じていることがあげられます。
凝固因子に異常をきたす代表的な疾患としては「抗リン脂質抗体症候群(抗体が自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患)」があげられます。
抗リン脂質抗体症候群によって不育症となっている場合には、血栓症のリスクを避け、低用量アスピリンとヘパリンによって治療していく場合が多いです。
(2) 子宮形態異常不育症のおもな原因の2つ目として、子宮の形の異常があげられます。
子宮の形の異常には、先天的な子宮の奇形と後天的な異常の2つがあります。
後天的な異常の原因としては、子宮の内側にできる子宮筋腫(子宮粘膜下筋腫)が挙げられます。
とくに不育症を発症する確率が高くなっている形態異常の場合には治療を行い、術後に妊娠に成功したという例も報告されています。
(3) 内分泌異常不育症の代表的な原因として3つ目にあげられるのが、内分泌ホルモンの異常により、甲状腺の機能が高まっていたり、低下していたりする場合です。
甲状腺の病気に罹っている場合には薬物などによって治療を行い、妊娠するにあたって問題ないレベルまでコントロールすることが必要となります。
(4) 夫婦染色体異常不育症の原因として最後にご紹介するのは、夫婦どちらかの染色体に構造的な異常がある場合です。
夫婦どちらかに染色体の構造的な異常があると、それが精子または卵子に引き継がれ、受精卵の染色体の部分的な過不足を引き起こすことがあり(不均衡型構造異常)、流産あるいは染色体異常を持つ子どもが生まれる原因となることがあります。
染色体異常は生まれつきの異常のため、現在では治療法がありません。近年、胎児の染色体異常による流産は増えており、この問題への対処として着床前診断(染色体や遺伝子の検査を行い、全体的な流産の回数を減らすということを目的としておこなわれる診断)が注目されています。
不育症の疑いがある場合には、まず検査を
複数回の流産や死産を経験したなどの理由から不育症の疑いがある方は、先ほどご紹介した4つの原因に当てはまるかどうか、抗リン脂質抗体検査・子宮形態検査・内分泌検査・夫婦染色体検査などを行います。
検査の結果、4つの因子のいずれかが不育症の原因として診断される方は、不育症患者のおよそ4割であり、残り6割は原因不明である状況にあります。
綿密に調べることができない箇所に原因が潜んでいる可能性があるため、原因不明の患者も少なくないという現状にあります。
●不育症の人は妊娠できない…?
では、不育症と診断された場合には、妊娠・出産は難しいのでしょうか。
流産・死産の影響で子どもを授かりにくくなっているのではないかと不安に思われる方も少なくありません。
しかし、不育症の方でも、70%~80%の方が妊娠・出産しているという調査結果も報告されており、必ずしも「流産を経験したから子どもができない」というわけではありません。
不育症の方が子どもを授かるには、流産の因子を検査して治療を行うことが大切になってきます。かかりつけの医師と相談しながら、原因を1つ1つ解決していくようにしましょう。