大人の発達障害が注目を集めています。生活に困難が生じてしまう傾向がありますが、人によって特性はさまざま。

絵本作家の西出弥加さんと光さん夫妻は、夫婦ともに発達障害という特性をもちながら、結婚という道を選びました。ふたりのリアルな暮らしの様子について、赤裸々に語っていただきました。

西出さん夫妻
西出さん夫妻。左から夫の光さん、弥加さん
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お互いに苦手なことがいっぱい…発達障害の特性をもつ夫婦の暮らし

●中途半端な人間関係は築けない…私たちは恋愛の前に結婚を選んだ

――弥加さんと光さんの出会いのきっかけを教えてください。

弥加 出会いはツイッターでした。私はかねてから発達に特性があることを公にしていて、同じ感覚をもつ人たちが集まるのですが、そこで繋がりをもちました。ツイッターを見ていると、どうやら光くんにはかなり強い希死念慮(漠然と死を願う状態のこと)があるみたいでした。「やばい」と思ったのが最初の印象です。

私も若い頃に何度か未遂をしたことがあったので、他人事とは思えず、会うことになりました。なんだか数年前の自分と会うような感覚でした。会おうとなった日、光くんは薬とお酒を同時に飲んで倒れていました。私はそのまま自分が住む1Kの部屋に連れて帰りました。そして、なぜかずっとうちで暮らすようになりました。

 僕はそのとき、重いうつ病を患っていて、弥加さんが救ってくれたんです。

弥加さん
弥加さんはテレビ出演経験もあり、twitterフォロワーは5000人を超える

――恋愛にはすぐに発展したのでしょうか?

弥加 恋愛感情はなかったかもしれない。私は口約束よりも、契約書で約束した関係の方がラクなので、恋愛の前にすぐ結婚を決めました。「いきなり!?」と思われるかもしれませんが、友情や恋愛など、感覚で人間関係が築けないところがあって…。

だから最初は友達でもなく、とりあえず弟として彼を見ることにしていましたが、ただ、その関係性もよくわからないなあと思い、いっそのこと「結婚しよう」と言いました。

――光さんは急なプロポーズにはどのように返事をしたんですか?

「いいよ」と答えました。でも、それは恋愛感情があったからではなく、拒む理由が見つからなかったからです。僕も弥加さんと同じように恋愛はできない体質。口約束だけの関係性ならいっそ離れたほうがラクだし、もし一緒にいるなら、かなり近い距離のほうがいい。弥加さんは出会ったばかりだったけど、僕の知り合いのだれよりも距離を縮めてくれたから、喜んで受け入れたんです。

弥加 私はかつて既婚者から告白をされたことがたくさんありました。これが口約束や言葉だけの関係をより避けるようになったきっかけのひとつです。

その相手に「家族の次に大事だよ」と言われたことがあり、そのとき「何言ってんだコイツ?」と思うほど意味不明でした。いろいろと気にかけてくれたことに感謝はあっても、信頼は一切ありません。私のなかに「次」という思考も浮かばないし、それを相手に言う概念はないです。ひどいと思ってしまうので。

 僕の場合は、恋愛に限らず、半端な人間関係が苦手ということもあり、仕事が続いたことがありません。マッサージ店で働いていたときは、距離の近いお客さんと1対1でなら向き合えましたが、同じ場に普段まったく話さない同僚がいたら、1対2になって、どちらにどう接したらいいかわからなくなり、結果、気遣いがまるでできなくなります。自分でもどうしてなのか…とても面倒な性格だと思います。

●結婚生活は夫の補助から始まった

仲の良い西出さん夫妻
基本はとても仲良しで、一緒にいることが多いそう

――入籍は今年の春。結婚生活を送るうえで、感じたことはありますか?

弥加 いちばんの変化は、お金のことをいつも思ってしまうこと。というのも現在、収入源は私だけです。デザインの仕事やイラストを描いたりして、一人ではゆっくり生きていけましたが、2人分の家事や相手への指示をこなしながら絵で稼ぐとなると苦しいものがあります。
光くんの保険料の滞納分や家賃、引越し費用も私が払っていたので、貧困のスパイラルに陥っています。「私がもっとバリバリ稼げるキャリアウーマンなら」と思うことが多々あります。

――そのスパイラルに発達障害は関係していると思われますか?

弥加 光くんはADHD(注意欠陥・多動性障害)をもっています。滞納、延滞金に関しても抜けがあったり、忘れてしまったりが原因です。あとは出先でビニール傘を購入して置き忘れ何本も購入したり、ペットボトルのお茶が冷蔵庫にあるのに、また外で買ってきて冷蔵庫の中がお茶だらけになったり…。

 いちばん多い忘れ物が「交通系ICカード」です。ICカードを持たずに外出してしまうことが多くて、駅で気づいて購入してしまいます。3か月で20枚も買ってしまって…。

弥加 すべて見て見ぬふりをすると、たった100円のムダが100万円のムダに膨れ上がる想像をしてしまい、これは破産するなと思って、私が光くんに教えることにしました。買ってしまったカードをそろえて、「500円のICカード20枚を駅窓口で戻せば、1万円返ってくるよ」と言いました。

 大半の人から見たら当たり前のことなのに、僕が気づいていないことを、弥加さんは怒らずにメモに書いて説明してくれました。あとは、冷蔵庫にお茶の本数を書いたメモをはってくれたり、傘は玄関の傘立てに入れておいてくたりと、忘れないように工夫をしてくれました。家中がメモだらけになりましたが、それから僕も忘れや抜けがかなり減りました。今日も傘を買わないよう、折りたたみ傘を持って出ました。

●日々の積み重ねで妻・弥加の頭がキャパオーバーに…

弥加 そうは言っても、私もASD(自閉症スペクトラム)傾向です。日常生活では強いこだわりや、プライベートでの社会性の欠如があるので、そこはまさに障害です。もともとプライベートのワーキングメモリがかなり少ないなか、光くんのことで頭がいっぱいで24時間絶えず気を張っています。

 ADHDは、気をつけていてもミスを犯してしまうので、何度も何度も弥加さんに迷惑をかけてしまうんです。普通の人ならば、「帰りにカレー粉を買ってきて」と頼まれたら、メモを取らなくても忘れずに買ってきたりします。「タマネギもないから買ってきたよ」というさらなる気遣いも発揮できると思いますが、僕にはなにもできない。本当にまるごと忘れてしまう。それ以外にもカギをかけるのを忘れる、水を出しっぱなしにするなど日常茶飯事。これが日常となると、弥加さんが困ってしまうのもわかるんです。でも困らせようとしているわけではありません。

カメラを構える光さん
光さんは自身もやきもきする日々を送っています

弥加 私は、幼少期から毎日強迫観念に襲われるような性質で、自分の抜けも許せないので、光くんのことをわかっているつもりが、理解できていないのだと思います。

――弥加さんご自身、日常生活で苦手なことってワーキングメモリ以外にあるのでしょうか?

弥加 社会生活の足かせになっている一つが、朝起きられないことです。どんなに努力しても、決まった時間に会社に行くことができないので勤務は難しかったです。いつ眠くなるのか自分でもまったくわかりません。とくに朝や、午前中に会う約束はできません…。

 弥加さんにとっての午前中は、みんなにとっての深夜なんだよね。そこは僕が午後の約束にしていればよかったんですよ。だから弥加さんが悪いわけじゃない。

弥加 こんな感じで、光くんは私が悪いのに謝ってくるんです。私は「できないのは甘え」と自分を責めてしまう性格なのですが、光くんは絶対に私を責めない。そんなところにかなり救われていると思います。
光くんのすごいところは、IQ値そのものはすごく高く、さらに人の気持ちをすぐ察知するところ。考えていることを代弁してくれて、寄り添ってくれるところ、そんなところに長けているので、今そのような特性を活かせる仕事を探しています。

●二人で地方への引っ越しを決めた!苦手なことはお互い手放そう

弥加 今の生活は正直苦しい。頭の中の8割は光くんへの指示や世話、残りの2割で仕事をしています。しかしお話した通り、私も苦手なことは多々あります。この状態でパワーを振りしぼって生きるというのは私にはつらいです。

だからと言って「別れよう」と思わないのは、光くんは私に「精神的な安定」をくれたからです。たとえば、結婚生活の基盤は「生活」や「仕事」だと思うんですが、私はそこに重きを置いていないです。私はやっぱり「心の安定」がいちばん欲しかった。ずっと小さい頃から欲しかったのはそこだけでした。生活が安定しないと心の安定もないかもですが…(笑)。

光くんの抜けや物忘れで困ったところは多いけど、光くんに傷つけられたことは一度もないです。なにかを言ったらいつも「いいよ」と許してくれます。私の心は以前より安定していると思います。

 僕も弥加さんとの生活によって、自分がこんなに一般的な基準とかけ離れている部分があることに気づくことができた。だから感謝をしています。今は延滞金は一つもありません。部屋も前と比べたらかなりきれいになりました。傘も大事に使っています。教えてもらえて助かっているので、僕も弥加さんが「こうしたい」と思うことは叶えたいと思います。

弥加 私たちはこの先も2人で生きていくために、東京を離れることにしました。都会だけど東京より家賃が安い場所へ移動しました。人と会う機会も減り、私も苦手なことを手放せた感覚です。結婚してからは絵を描く余裕がなかったけど、ここでなら続けられるかもしれません。

西出さんの作品
西出さんの作品

一人で突っ走って稼ぐだけならできても、抜けがかなり多いADHDの特性の人に、几帳面でこだわりのあるASDが指示をするとなると、これは大変なことが起きています。結婚して私はいきなり「お母さん」になった感じです。ちなみに相手の苗字を「西出」に変えて、私はそのまま、変えていません。お婿さんでありながら、光くんは息子のような存在です。

というより夫として見たことは一度もないかも…。光くんも私を妻として見たことはないのかもしれない。男女や恋愛の段階はなく、出会った初日から長年連れ添った家族のような感覚で生きています。

 僕も徐々にできることを増やして、弥加さんと穏やかに暮らしていけるよう努力していきたいです。

●”障害”は、人と環境の間に生じるもの。受け入れる環境があればなくなります

弥加 こんな感じで、発達障害同士の結婚って一見、大変そうだなと思われるかもしれませんが、工夫次第、とらえ方次第で、穏やかな生活もできると思っています。それぞれ苦手な部分も多く、デコボコな夫婦ですが、発達に特性を抱えた人は、素晴らしい才能を持っているのも事実。だからお互いにいい部分を伸ばしていけるように生きていきたいです。

発達障害って、その人自身の問題と捉えられることが多いですが、人と環境の間に“障害”が生じているのだと思っています。足を怪我して車椅子に乗っている人の目の前に長い階段があると障害になりますが、目の前にエレベーターがあると障害が減るように、たとえ発達に特性があっても、受け入れてくれる人や環境があれば、障害がなくなります。

日常生活での苦労は尽きませんが、それでも私たちは自分たちの道をなんとか見つけて生きていこうと思っています。

●西出弥加さんのそのほかの記事はこちらから。 夫婦で発達障害。会社勤めが10日しか続かない夫に妻は… 過剰な愛情が”毒親”をつくる?心を壊した私が伝えたいこと

【西出弥加さん】

絵本作家、グラフィックデザイナー。1歳のときから色鉛筆で絵を描き始める。20歳のとき、mixiに投稿したイラストがきっかけで絵本やイラストの仕事を始める。2014年に『げんきくん、食べちゃうの?』を出版、絵本作家デビュー。