ある日、親が介護を必要とする状態になったら…。日本は「介護保険制度」が公的に整えられています。しかしその仕組みや利用方法はとても複雑。
「“サ高住”、“要介護度”、“サービス加算”、介護施設のパンフレットを見ても言葉の意味がわからない…、という超初心者な状態から、いきなり親の介護がスタートしました」と自らの体験を語ってくれたのはライターの烏丸莉也さん。
今回は、介護認定を受けるまでの実体験をもとに、注意すべきポイントを解説。また、東京医療保健大学講師・山之井麻衣さんにアドバイスしていただきます。
介護保険の利用を考え始めたら!申請から認定結果を受け取るまでの流れをチェック
いざ親の介護が必要になったとき、初めにどのような介護が、どの程度必要かを知る必要があります。そんなときにまず相談に行く先は、地域包括支援センターです。
●1:親の住民票がある区市町村の「地域包括支援センター」に相談しよう
地域包括支援センターとは、「住民の健康保持、生活の安定に必要な援助のために保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援すること」を目的に各区市町村に設置されている機関です。
親の住民票がある自治体の福祉課や高齢者相談窓口で、担当センターを教えてもらえます。
私の場合は、親が遠方に住んでいたので、市役所やセンターの担当者とのやりとりは電話やメール、郵便でお願いすることができました。
地域包括支援センターでは、家庭の事情に合わせた介護プランが提案され、場合によっては住んでいる自治体ならではの独自のサービスの紹介をしてもらうことができます。
訪問看護や配食サービスなど、在宅介護の制度が整っていたとしても、「思ったようなサービスではなかった」とか「すぐ近くに事業所があるのにあきがなくて、遠くまで行くことになった」といった想定外のことも。
ホームページやパンフレットだけではわからない、サービスの選択肢についてのアドバイスをもらえました。
介護保険の申請書も簡単に提出できます。介護保険サービスの利用には、必ず「介護認定調査」を受ける必要があります。
介護保険の加入者ですぐに介護を必要とする状態であっても、「介護保険被保険者証」を提示すればすぐにサービスを受けられるというわけではないのです。
40歳になると加入が義務づけられている介護保険。会社員の場合、64歳までは健康保険などと一緒に徴収されています。
しかし、65歳になった月からは、市区町村からの徴収にきり替わるので、注意しましょう。この手続きや支払いができていないと、次の認定調査のステップへ進むことができません。
私の親も、きり替え時の手続きができておらず、未納の状態でした。
幸いすぐ未納に気がつくことができたので対応できましたが、何年も放置してしまっていたらいきなり金額が膨らんでしまっていたかもしれず、ゾッとします。
「年金支払いのきり替えは、一般的に定年退職をするときり替えのお知らせがあり、未納となることはあまりないといわれています。今回のケースは、今や珍しいケースで多くの人は無用な心配をする必要はありません。介護保険料は、一般的に65歳以降は年金から天引きされます。しかし、年金支給額より介護保険料が多い場合や、定年前の早期退職、個人事業主だったために手続きがうまくいかなかった等では、未納のケースもあるようです。心配な人は年金番号を控えたうえで、お近くの自治体の年金窓口で確認をしておきましょう」(山之井さん)
●2:平日の日中に行われる介護認定調査員と本人の面談
介護認定の申込後、介護認定調査員と介護を受ける本人の面談があります。
市区町村の職員や市区町村が委託したケアマネージャーが調査員として、介護が必要となった本人の心身の状態に応じた状況をを調べるのです。
調査の場所は自宅だけでなく、入院先の病院でも対応してくれます。時間は平日の昼間。土日・祝日は対応していないとのこと。
調査内容は現地で直接、ほとんどが口頭での質問で行われ、体の健康状態や認知機能、精神状態や生活能力など、全部で74項目の質問をされます。実際に歩いている姿勢や立ち上がるときの様子をチェックする動作の確認などもありました。
家族の同席はマストではありませんが、事前に地域包括支援センターから、本人の状況を客観的に説明できるように家族が同席したほうがいいとアドバイスもされました。
高齢者は「面接」という状況に、必要以上に張りきってしまい、正しい介護度が出ないケースもあるそう。
実際、私の親も面談の当日、自分がいかに健康であるかという点にフォーカスしながら力強く話し出しました。
認知症ではないと病院の診断をされていたので、突然の思わぬ親の一面に、本当に驚いてしまいました。
家族が本人の前で調査員に事実を伝えると、本人のプライドが傷ついてしまうことがあります。
私の場合は、本人が退席したあとに、薬の管理が自分でできなくなっていることや、本人の説明のなかにいくつか作話が含まれていたことなど、調査員にフォローアップする時間も設けてもらえました。
調査項目にはない本人の問題行動や、家族が既に倒れていたりする個別事情も、特記事項として書いてもらい、審査の対象にしてもらえます。
親世代は「みっともない」という感覚が先行して隠そうとする場合もありますが、その負担が家族に押し寄せてしまうことも。
事実をできるだけ正確に伝えたほうがいいと思います。
面接を終えて、もし本人だけで対応させていたら、正しい認定結果を得られない可能性が高かったなと感じました。
介護施設に入所している場合なら、施設のスタッフが同席して日頃の生活の様子などを伝えてくれたりもするそうなので、家族の負担はより軽減しそうです。
「今回のケースでは、地域包括支援センターのアドバイスどおりに対応できたおかげで上手くいきました。しかし、今の時代は共働きで時間が取れなかったり、育児でどうしても同席できない場合もあります。その場合は、担当ケアマネージャーに親の状態を伝え、事実を正確に伝えられる体制づくりをしておきましょう。
さらに調査や申請時に『結果がいつわかるのか』を訊ね、今後の準備を計画的にできます。もし認定結果が予想と違う場合は、速やかに不服申し立てができます」(山之井さん)
●3:介護認定結果が出たら方針を立てよう
認定調査の面談後、およそ2週間後に認定結果が郵送で送られてきました。
この判定には、コンピュータによる解析結果を踏まえ、保健・医療・福祉の学識経験者(5人程度)からなる介護認定審査会で、主治医意見書、特記事項の記載内容をもとに判定されるそう。
自立・要支援~要介護のどの程度に当てはまるのか認定が出てからは、必要なサービス(訪問看護など)を受ける際にも自費負担が明確になり、方針を立てやすくなります。
・チェックポイント:何事も時間はかかる介護認定の申し込みをしてから、結果が出るまでスムーズにいっても3週間はかかってしまいます。
私の親は結果が出る前に施設へ入所していたのですが、介護保険の料金分は、申請書類の申込日にさかのぼって後払いで対応してもらうことができました。
何週間も仕事を休んだりせずに調整できたので、本当に助かりました。
介護認定の判定が不服な場合には、再調査を請求することもできるそう。
ただ取り消しの判定が出るまでに数か月はかかるそうです。
そしてまた最初から介護審査をすることになるので、早く介護サービスを使いたいときには、あまりおすすめできません。
「入院日数の短縮により、介護に手がかかる状態のまま自宅や施設での療養に移行することは、今は当たり前に起こります。そのため『急に介護保険が必要になった』と感じる人が多いと思います。
まだ介護認定の手続きをしていない場合で、サービスを導入しないと生活が成り立たないというときは、まずは『みなし認定』という要介護状態認定前にサービスを導入することが可能です。そのためにも地域包括支援センターへ相談することは不可欠です」(山之井さん)
働き盛りの子ども世代は、いざ親の介護が必要な状況でも、なかなか身動きがとれず、ついつい問題を先送りにしてしまうこともあるかと思います。
しかし、事件や事故が起こってからでは取り返しがつきません。
地域包括支援センターをはじめ専門機関にいる介護のプロに、まずは状況を話してみることが大事だと強く感じました。