90歳の今、ますます団地のよさを実感
団地のよさは、私にとっては目の届く狭さでした。結婚してから義母と同居していた大きな家は、掃除も大変だったし、家族がバラバラでした。
50平米ほどのこの団地の部屋は、子育てにはピッタリでした。子どもたちの顔をいつでも見ることができ、元気がないな、具合が悪そうだなということが、言葉に出さなくてもわかりました。
すべての画像を見る(全4枚)新型コロナウイルスの流行が始まる少し前、風邪が悪化して肺炎になり、1週間ほど入院したことがあります。そのとき、長男に必要なものを持ってきてもらったのですが、「〇〇は押し入れの棚、△△はリビングの引き出しに入っている」と的確に指示ができました。
狭い団地だからこそ、どこになにが入っているのか把握できています。ひとり暮らしなので、いざというときのためにも、もののある場所がわかっていると安心です。自分でも、「私ってすごいかも」と感心しました(笑)。
お子さんが独立して夫婦ふたり暮らしになったお友達から、「一戸建てを売って、マンションを買って引っ越そうかな」という話を聞きました。私は「どちらかが先立ってひとりになったとき、施設に入るとなったら、またマンションを売らないといけない。賃貸のほうが手間がかからないんじゃない」と言いました。
ご主人も「それがいい」と私の意見に賛同したそうで、うちの団地に見学に来ました。でも、エレベーターがないからと断念、近くのエレベーターのある団地に引っ越しました。「賃貸の団地に引っ越して気がラクになった」と、ふたりで元気に暮らしています。
年齢を重ねると、ますます団地のよさを実感します。
ひとり暮らしでも、団地内には人がいるので、寂しさを感じにくいように思います。団地の広場で毎朝開催されているラジオ体操に参加し、必ずだれかとおしゃべりをしています。家の中で修理が必要な箇所が出たら、団地の事務所に連絡すると対応してくれます。
ずっとこの団地に住み続けたのは、いい選択だったと思っています。
多良美智子さんの新刊『90年、無理をしない生き方』(すばる舎刊)は現在発売中。
