親が高齢になるにつれて、身体機能や認知機能が低下しているのを感じる人も多いのではないでしょうか? できるだけ長く、快適に暮らしてほしいですよね。そのために大切にしたいのが、自宅の環境づくり。今回お話を伺ったのは、豊富な介護経験を積み、故マザー・テレサ氏とも懇談をした、現役ケアマネージャーの田中克典さん。身体機能の衰えによる「不便」を快適にする部屋づくりのコツについて、詳しく紹介します。
すべての画像を見る(全6枚)1:高齢親の認知症疑いに「IH式コンロ」
親が自立生活をしているなら、今日できたことが明日もできるように、暮らしの環境をサポートしてあげましょう。
ただし、現実問題として老化は避けることができません。転倒などのリスクも高まっていきます。そこで子に求められるのは、親の身体機能や認知能力が低下したときのことを想定した対策です。
Cさん(80代・女性)は55歳で夫を亡くし、以来30年近くひとり暮らしをしていました。ヨガ教室に通うなど、体は丈夫で元気でしたが、70代後半からもの忘れが多くなりました。
80歳を過ぎると、認知症の症状が顕著になり、瀬戸物の急須を直接ガスコンロにかけたこともあります。帰省して、母親の危険な行動を目撃した娘さんは、その日のうちにコンロをIH(電気)式に交換しました。これは正解です。でも、認知症が進行する前にIHにきり替えていれば大正解でした。
高齢になれば、自分でできる(と思っている)ことがあればあるほど、家のなかでトラブルを招く危険も多くなります。しかし、その危険から親を守ることも、事前の対策で可能になります。
身体機能の衰えとともに、親の毎日の生活動作には“不便”が生じてくると思ってください。そして、不便を解消する手助けをして、“快適”な生活を一日でも長く続けられるようにしてあげるのが子にできる恩返しです。
2:玄関、脱衣所には「イス」を置く
「片足で立ってみて」と、親にお願いしてみてください。ふらつきはないでしょうか? 足腰が弱くなると、片足で重心を取るのが難しくなり、転ぶ原因になります。
日常生活のなかには片足立ちになる瞬間があります。たとえば靴を脱ぐとき。じつは玄関は転倒事故が起きやすい場所です。外出から戻ってきて気が緩むことも手伝って、靴を脱いでいる途中で転ぶケースが少なくありません。
座った状態で靴を履いたり脱いだりすれば転倒は避けられます。玄関にはぜひイスを置いてください。座面の下に収納スペースがあるスツールでもいいでしょう。
もしも玄関が狭く、イスを置きっぱなしにすると邪魔になるようであれば、折りたたみ式のイスが便利です。
着替えでズボンや下着を脱ぐときも片足立ちになります。浴室の脱衣所にもイスがあったほうがいいでしょう。そして、着替えるときは「安定した姿勢で座る」ことが習慣になるよう、親に促してください。
3:「浴室用イス」は座面の高いものに
浴室にイスが置いてある場合、その高さを考慮していますか? 銭湯のイスと同じくらいのサイズでは、高齢者には低すぎます。高齢者にとって低いイスは、立ち上がるときに膝や腰に大きな負担がかかります。
親の安全を思えば、いますぐ座面の高い浴室用のイスに買い替えましょう。親が変形性膝関節症などで要支援・要介護の認定を受けるほど足腰が弱っているなら、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談してアドバイスを受けてください。
場合によっては、病院やデイサービスなどの浴室でも使用されている介護用品を推奨されるかもしれません。介護用の入浴用イスは座面が高く、つくりもしっかりしていて安定しています。背もたれや肘掛けがついたものや、高さが調節できるもの、またコンパクトに折りたためるタイプなど種類も豊富。
買うとなれば数万円はしますが、介護保険が適用されれば1~3割の負担で購入することができます。