『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞し、『ランチのアッコちゃん』や『BUTTER』など話題作を続々と発表してきた小説家・柚木麻子さん。3月には最新短編集『あいにくあんたのためじゃない』(新潮社刊)を上梓。今回は柚木さんに、悩みとの向き合い方や、今を楽しく過ごすためのコツなど、語っていただきました。

小説家・柚木麻子さん
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場所が変われば、「私の悩み」なんて「ない」かもしれない

新刊『あいにくあんたのためじゃない』は、過去のブログ記事が炎上中のラーメン評論家を描いた「めんや 評論家おことわり」など、全6篇の短編小説で構成されています。

「自分の機嫌を自分でとれない人に楽しんでほしい」という想いが込められている本書ですが、著者である柚木さんが最近実感したのが、「場所が変わればいろんなことが変わる」ということ。まずはきっかけについて尋ねてみました。

「これまで著書が海外でも出版されましたが、本の読まれ方が、イギリスやドイツ、アメリカ、スペインなど、インタビューで聞かれる内容も違っていて。ひょっとして、場所が変わると『私の悩みってなかったのでは…?』みたいなことが増えてきたんです。

たとえば、前著『BUTTER』の日本での帯は、もちろん褒めてくれているのですが、『これを読んで女の人が怖くなった』というもの。『やっぱりそう思われちゃったか…』と思いましたし、好意的な書評でも『女怖い』という褒められ方がすごく多かったです」(柚木さん、以下同)

柚木麻子さん

「でも、イギリスとドイツでのコピーは、『フェミニストとマーガリンは嫌いなの』と、たった一行。めちゃくちゃかっこよくないですか? もちろん私は日本の作家だし、日本が嫌いではないのですが、この違いを受けて、『場所が変わったら、もしかしたら私の悩みってなかったのかもしれない』と思うようになりました。ついつい人って自分を責めがちだけど、そういう視点を持っているとすごくラクになる」

とはいえ、なにかあると「自分のせいで…」なんて、自己否定で回していませんか? 柚木さんはその“自己否定癖”みたいなものをやめてみるといいと語ります。

「もし今パート先で辛かったとしたら、自分が“無能”だから問題が起きているというよりも、“その職場だから”起きていることなのかもしれません。子どもの学校の悩みとかも、それってうちの子が悪いのか、それともこの学校の構造の問題なのではないか、なんてちょっとだけ視野を広めてみるといいのではないかと思います。

育児の話でいうと、昔、タレントの里田まいさんが“液体ミルク”をアメリカで買ったという話をブログで上げていて、どよめきが起きた記憶があって。『液体ミルクってものがあるなら、やらなくていいことが増えるのでは…?』って教えてもらいました。そういう、女の人同士の何気ないブログのつながりとかから、『私の悩みってもしかして場所の問題だったりする?』って気がつくことがあると思いますよ」