●都会の快適なマンション暮らしと、老いてゆく母。選んだのは…

きんのさん
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かつては母親に対し、少し複雑な気持ちもあったというきんのさん。

「幼い頃両親が離婚し、父と祖母に育てられました。母と生活した時間は短く、この境遇を恨んだこともあります。就職で上京した際に同じく東京にいた母と再会し、交流が増えました。母はお茶目で無邪気な人。色々あっても憎めないのはやはり母親だから。ケンカもするけど、すぐ仲直りできる不思議な関係です。母のSOSに応えられるのは私だけ、それだけははっきりしていました。

確かに、最近の母の異変には気づいていました。足元はおぼつかないし、同じ話を何度もしたり、同じものを大量に買ってきたりすることも。母の老後を見るのは私しかいない、でも…。母を選べば、思い描いていた私の夢は捨てることになります。着物で美術館、快適でおしゃれな住まい、気ままなシングルライフ、すべて諦めなくてはならなくなる。しかも団地は職場から往復3時間の距離にありました」

●問題が起きたときは、メリットとデメリットを整理

母を取るか、自分の夢を取るか――。きんのさんにとって、とても難しい問題だったと言います。

「問題が起きたとき、いつもやることがあります。それはノートにメリットとデメリットを書き出すこと。すると、団地と都内のマンション、どちらもメリット、デメリットは同じぐらいあることが見えてきました」

ノート

「それなら自分が譲れないこと、失いたくないことはなんだろう。ここで母を見捨てたら、私は一生後悔する。私は母を、そして団地を選びました」

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