●「時間」をひとから買うこともできる

「時間は、外注。これが、常識」

そんなキャッチフレーズのCMが、一時期頻繁に流れていた。テレビではなく、タクシーの座席につけられたモニターで。

顔立ちのはっきりした俳優が人差し指を立てながら言うすがたが、見たひとにはインパクトを与えた。お笑い芸人があるあるネタとしてこのCMによく言及していたが、タクシーにあまり乗らないひとはピンときておらず、タレントたちには大ウケなので、かれらの日常がうかがえた。

そう、スマートなひとは「時間」を外注している。スマートフォンのアプリを使って、「時間」を周辺にいるひとから買うことだってできる。

ある国では「時間」のシェア・サービスが活発で、街のいたるところに「時間」が設置してあり、お金を払えばだれでもその場で借りられるらしい。「時間」をそのまま持って帰るひともいそうだが、事実「時間」の使い捨てをするひとは多く、捨てられた「時間」が集められる「『時間』の墓」という場所ができあがっていて、観光名所になっているくらいだ。

「アビー、これを捨てておいてくれ。資源ゴミで出せばいいから」
「そういうもんですかね」

しかし、アビーはぐちゃぐちゃな「時間」を捨てなかった。それどころか、かれはそれをインターネットに発表したのだ。その形の異様さが話題となり、個性として受け取られて付加価値を生み出したのだ。さらにアビーは自分が作者だと名乗り、メディアのインタビューに答えた。そのうえ、新作まで発表し、もうすぐ個展を開くという。

キャメロンは訴えようかと思ったが、そんな「時間」はないのでやめることにした。

 

【編集部より】

「時間をつくる」と言うことはありますが、それは比喩です。時間は抽象的な概念で、つくったり捨てたりはできません。もちろん、「溶ける」も比喩で、それだけあっという間に時間が過ぎたときに使います。

スマートフォンから離れる方法はたくさんあります。通知を切ったり、近くに置かなかったりすると、四六時中触ることを防げます。自分なりの適度な距離感を探してくださいね。

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