●自傷は心の状態をみるバロメーター

引きこもる女性
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数十年前から日本で社会問題となっているのが、「引きこもり」です。引きこもりとは、厚生労働省の定義によれば、「社会的参加を回避し、原則的には6か月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出も含まれる)」とのこと。

「2019年の内閣府初の推計によると、日本にいる引きこもりは約100万人。そのうち15~39歳が54万人を占めます。1980年代の10~20代の引きこもり世代が、今40~50代となり、親も70~80代と高齢になり、『8050問題』と呼ばれるほど社会問題化しています」

引きこもりが続くなかで、漫画で紹介したように、まれにリストカットのような自傷行為をおこなうケースもあります。そんなとき、周囲の大人たちが注意したいのが「愚かな行為だ」「気を引くためだ」と決めつけたり、「自殺しようとしたので緊急事態だ」などと焦って騒ぎ過ぎたりしないことです。

「私は、自傷は風邪における『熱』のようなものであり、心の状態を表すバロメーターのようなものだと考えることもあります。風邪において『熱』だけを下げようとしてもあまり意味がないのと同様に、自傷行為だけを止めさせようとしてもあまり意味がなく、背景にある心の叫びにいかに気づいてあげるかが大切です。自傷行為は好ましい行為ではないですが、一方でその行為を責めると行き場を失い悪化する可能性もあるので注意しましょう」

●摂食障害にであったときの声かけは慎重に

食欲がない女性

また、子どもが引きこもりになった際、自傷行為のほかにもまれに摂食障害があることもあります。

「摂食障害に含まれる神経性やせ症は、概して標準体重のマイナス15%以下の体重(またはBMIで17・5以下など)で、体重増加への強い恐怖や低体重への深刻さの欠如などを伴います。やせていても元気に見える場合もありますが、餓死したり自殺したりすることもあり死亡率も決して低くはありません。身体管理がまず優先されます」

体重や電解質の値がある一定以下の値になれば入院治療という処置が取られることも。

「ときには神経性やせ症は本人が望んで至る疾患でもあるため、周囲の大人たちは自分の感情の理解と対処が大切です。また、摂食障害をもつ子どもたちに対して、『しっかり食べてほしい』『もっと体重を増やしてほしい』といった言葉かけは慎重に行いましょう」

学校や医療機関が、摂食障害のある児童・生徒と話す場合は、彼らの言い分をしっかり聞いて少しでも理解して関係性を維持することに努めることが求められるそうです。

「実際に彼らに話を聞いてみると、親子関係が複雑なことも多いです。親子関係が険悪になっていたり、逆に親が児童・生徒の言葉を鵜呑みにしたり児童・生徒の言いなりになっていたりすることもあります。だからこそ保護者と話すときは親子関係が健全に機能しているか確認するようにしています」

子どもの不登校や引きこもりを解決するのは、並大抵のことではありません。ただ、教育機関や医療機関に相談した場合、どのような対応が取られるのかを知っておくだけでも子どもへの対応の仕方が変わるのではないでしょうか。

 

宮口先生の最新刊『普通にできない子を医療で助ける マンガでわかる境界知能とグレーゾーンの子どもたち5』(扶桑社刊)では、不登校、引きこもり、自傷…など「普通にできない子」のケースや、現実的な対処法などを漫画をまじえて紹介しています。ぜひご一読ください。

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