日本は家づくりのコスパ、パフォーマンスの価値が違う
すべての画像を見る(全5枚)たかまつ:住宅の断熱性や省エネ化は、SDGsの文脈にも当てはまるわけですが、日本のSDGsの盛り上がりについて、森さんはどう見ていますか?
森:明確な目標にみんなが相乗りしていく流れは、いいと思っています。ただ、17の目標のうち、たとえば3つだけに該当しても意味がないと思っています。SDGsはポイント制ではなく、アクションがすべての項目に矛盾しないことが重要ではないでしょうか。それが最終的に「だれも置き去りにしない社会」につながる。中身のないSDGsの使われ方も増え、悩ましいなと思います。
たかまつ:あるインタビューで森さんが「家づくりのコスパの『パ』、パフォーマンスの価値が日本は違う」とおっしゃっていたのが印象的でした。
森:やはり価値観なんです。日本では家のパフォーマンスとして、広さやデザインを求めます。自分の生命にからむ耐震性能にはこだわるけれど、まだまだ多くの人にとってエネルギー問題は他人ごと。地球の裏側の人たちの生活が、しんどくなっていることに思いをはせることができない。そんな日本の価値観が、そのまま住宅市場に反映されているように思います。
たかまつ:そうなんですね。
森:30年前のドイツでは他国へのエネルギー依存が増え、「環境問題」のみならず「国防」の観点から省エネが始まりました。そして今、自分たちが世界をリードしているという自負がある。日本とは小学校の教育から違っていて、たとえばジュースを買うとき、ドイツの子どもたちは、ペットボトルではなく、重いガラスビンを選びます。そして次にお店に行くときにビンを持っていき、デポジットの機械に入れて50セントを回収する。数百円の買いものでも、環境負荷の少ないものを選ぶ。そういう価値観が、数千万円をかける家づくりでも継承されるんです。
家を建てるとき、家の燃費か光熱費予測を聞いてほしい
たかまつ:省エネ性能が家づくりのポイントになりつつあるけれど、消費者のリテラシーに委ねられている面もある。省エネ住宅を建てたいと考えている方にアドバイスをいただけますか。
森:設計段階で「家の燃費か光熱費予測を提示してください」と聞いてみてください。光熱費予測が出せるということは、冷暖房エネルギーを把握しているということ。回答できない業者に依頼するのはリスクでしかありません。
たかまつ:そもそも、省エネなど考えてないっていうことってことですよね。
森:残念ですが、消費者が知識をつけないと間違った買い物になってしまうのが、日本の住宅事情です。真面目に一生懸命やっている会社より、営業力だけが強い会社が選ばれる状況を回避したいし、なにより家を買うという一生に一度の買い物で後悔してほしくない。そう思っています。
●教えてくれた人:森みわさん
ドイツの建築事務所でパッシブハウスの設計プロジェクトに携わり、2009年3月に帰国。2010年に「パッシブハウス・ジャパン」を設立。日本の風土に合わせたパッシブハウスのあり方を提言している