フレンチのシェフから家政婦に転身し、その気軽でおいしいレシピが大人気のタサン志麻さん。
自身のパーソナルマガジン『à table SHIMA vol.03 冬号』に加えて、新刊『志麻さんのベストおかず 料理のきほん編』も発売に。そこで今回は、志麻さんが料理で大切にしていることについて、お話を伺いました。
タサン志麻さんインタビュー。五感を研ぎ澄ませ、レシピに忠実になるのをやめてみる
すべての画像を見る(全6枚)――料理が好きな人が多い一方で、家族のために毎日なにかをつくるのは大変、得意ではないという意識を持つ人も多いです。志麻さん自身が料理をする上で大切にしていることはなんでしょうか?
「そうですね。まずお伝えしたいのが“レシピに忠実になりすぎないで”ということでしょうか。これは家政婦のお仕事を通して痛感したのですが、調味料、材料、調理道具などは、家の数だけバリエーションがあるので、その中でなにかをレシピ通りにつくっても、完全に再現することは、ほぼできないと言っていいんですよね。でも、だからこそその家庭ごとのオリジナルな味が生まれてくるんです。
だから料理の初心者や苦手意識を持つ方こそ、レシピは参考程度にとどめておいて。あんまり捉われすぎないようにしてみてください。たとえば今、お湯がぼこぼこと沸いてきたな。お肉の焼けるジュージューという音が少し変わってきたな、とか。目の前の料理の食材の状態を、自分自身の五感を研ぎ澄まして、よく見ることがいちばんなんだと思います。
たとえレシピに“弱火で〇〇分”と書いてあっても、各ご家庭にある調理器具や熱の通し方、部屋の温度などでも、食材への火の通り方は変わってきますから。そうやって、自身でさじ加減をみながら工夫していくのが、料理をする上では大切だし、自分だけの味をつくり出す楽しみに続いていくのだと思っています」
●料理は苦手だったら、毎日やらなくてもいい
――料理は家族の健康を守るもの。と同時に、栄養バランスの摂れた食事を毎日3食つくるという行為自体に疲弊している人も多いです。
「日本人の場合はとくにそうかもしれませんね。いいお母さんの条件のひとつが“毎日ご飯をつくること”になりがちな風潮があると思います。でも、いいんです。そんな無言の圧は無視してしまって(笑)。料理が苦手だったら、いっそのこと、あまり頻繁にやらなくたっていいぐらい。
10代後半から調理師修行を始めてプロとしてレストランで働いあと、家政婦として家庭料理に携わってきた私ですら、疲れたときは外でお総菜を買い、それを温めなおして食べていますよ。自分で言うのもなんなんですが、食のプロの私でも、ご飯をつくる余裕がない日だってありますし、そんな場合は迷わずにだれかの助けを借りています。
疲れている日は外食してもいいですよね。レストランでおいしいものを食べると「これはどうやってつくるんだろう?」、「家でつくるとしたら、なにを入れてみる?」などと、いい気づきのきっかけを与えてもらえますし。
うちの場合、夫のロマンが私の代わりに料理をつくってくれるときもあるんですけど、これがまた、おいしくないんです(笑)。でもそれはそれでよし。子どもたちは夫がつくった、麺がのびきった焼きそばをおいしいと言って食べているし、それはそれで『おもしろいね~』って。家族のひとつの話題になっているんです。
私が日本人の家庭料理に対する考え方で気になるのは、みんなちょっと完璧主義に陥っていないかな? ということ。料理づくりや家族への関心が高いのはすばらしいことですが、なにもかもパーフェクトにしなくてはと、少し窮屈な方向へいってしまっている部分もあるのかも? と思います」