だんだんと気温も下がり、そろそろ冬の気配が感じられる季節。森ではそろそろクマが冬眠を始めようとする頃合いでしょうか。種類や地域、状況にはよりますが、クマは11月から翌年4月頃まで冬眠するそうです。
人間は冬眠する!?理研の博士に聞いてみた
すべての画像を見る(全5枚)人間にはイマイチ関係がなさそうな冬眠。しかし、「人間を冬眠させる」研究をしている人がいるのをご存知ですか?
●“冬眠するサル”の論文に衝撃!
寒い冬の数日から数か月の間、哺乳類ではクマやリス、コウモリなど、爬虫類ではヘビやカメといった動物たちが「冬眠」。つまり、飲まず食わずで眠り続けることは古くから知られていました。しかし近年になって、サルなど霊長目の中にも冬眠する種がいることがわかったのです。
ある小児科のお医者さんは、その論文を読んで衝撃を受けました。そして、なんと冬眠の研究をするために科学者になってしまったのです。
その人の名は砂川玄志郎博士。理研(理化学研究所)で冬眠について日々観察や分析をしている研究者です。砂川博士は、サルが冬眠するという論文で、どうしてそんなにショックを受けたのでしょうか?
「子どもたちの診察をするようになって、医者になって4年目を迎えたとき、冬眠するサルがいるという論文を目にして、頭の中がガラリと変わりました。『これなら助けられない命を救える』と瞬間的に感じたのです」
●「サルの冬眠」から「人命救助」を発想
「サルの冬眠」と、「人命を救う」こと。普通に生活していると、この2つがどう結びつくのかわからないのが当たり前ですが、そこには日々、命と接している小児科医ならではの気づきがあったのです。
「病気で重症になってしまった人たちは、十分なエネルギーが全身にめぐっていない、エネルギーが足りていない状態です。最近でいえば、新型コロナウイルスで肺炎になって重症化する人も、肺がボロボロでカラダに酸素を取り入れられないから、カラダ中の細胞が死んでいってしまう。ほかに、心筋梗塞で心臓の動きが弱くなって、体内に酸素がめぐらなくなるというのも同じです」
病気が重くなり、酸素やエネルギーを十分にカラダの細胞へ届けられなくなっているのですね。
「そこで『冬眠』です。冬眠している動物は必要なエネルギーがかなり少なくてすみます。重症の人を、冬眠という状態にしてあげられたら、必要なエネルギーが少なくてすむため、肺がボロボロだったり、心臓が弱っていて、酸素があまりめぐらない状態でもなんとかなるのではないかと思ったのです」
エネルギーが届かなくて困っているなら、使うエネルギーを少なくすればいい、という考え方です。
「サルが冬眠するという論文を読んだとき、瞬間的にこの考えが頭に浮かびました。もちろん同じ霊長目でもヒトが冬眠できるのかとか、カラダのサイズの問題など、思い浮かぶ問題はいろいろありますが、ヒトでも冬眠できるんじゃないかと思い込んでしまったのが、研究をはじめるきっかけになりました」
こうしてドクター砂川は科学者としての道を歩みはじめたのです。