●母の記憶にやさしく刻まれている、犬と祖母の光景
すると「そうやなぁ…」と一拍を置いて、「やっぱり畑から帰ってきたらおばあちゃんと犬が一緒にいるところやなぁ」と答えてくれた。おばあちゃんとは母の実母だ。
母が朝から畑で農作業をして、昼前に帰ってきたら祖母と犬は庭先でならんでお留守番をしてくれていた。そしてご飯を食べたら、母はまた畑に出かけて夕方頃帰ってくる。
夕方に帰れば、祖母が犬をうちの中に入れてくれていて、上がり框に腰掛けた祖母と犬がやはり並んで迎えてくれたらしい。母の記憶に祖母と犬の光景がやさしく刻まれているのが、うれしいし切ないし。
すべての画像を見る(全15枚)祖母が現在の8歳の犬を見たら「もうよお抱っこできへんわぁ」と顔をクシャッとしかめて首を振るだろう。祖母の癖だ。祖母は犬に手を甘噛みされながら「みーちゃんは噛まへんのに私の手ばっかり噛みにくる」とわざわざ恨めしそうに、だがうれしさがこぼれるように話していた。
町の病院でリハビリを受けていた祖母は、よく病院帰りに友人を連れて帰ってきた。うちに帰ってきた祖母と友人を犬が迎えている瞬間に、私はその日たまたま出くわして写真を撮っていた。写真の中で、祖母が犬に向ける眼差しはあたたかい。祖母の目尻を見ると母が年々祖母に似てきているのを感じる。
第1回~12回までの連載に加え、書籍オリジナルのコラムや写真も多数掲載した『inubot回覧板』(扶桑社刊)。こちらも犬の魅力が満載なので、ぜひご覧ください。