妻の性自認は「男」で、夫の性自認は「なし」
弥加さんは「私たちは、発達という特性以外にも、一般の夫婦とは違った部分がある」と、結婚した「もうひとつの理由」を教えてくれました。
●女性として見られるのが苦しかった過去
普通に見たら、普通に気の合った男女の結婚と思うかもしれませんが、じつは私自身の性自認は「男性」ということもあり、今の夫でなければ結婚に至りませんでした。
すべての画像を見る(全8枚)夫を初めて見たとき、肌が白くきめ細かい印象を持ちました。そして腕や足も細く、風に飛ばされてしまうのではないかと心配になったことを覚えています。
服装もフェミニンで、ベージュのグラデーションが美しいアイシャドウを塗っていて、女の自分よりもずっと女性らしい雰囲気を出していました。
それに比べて私はパーカーとジーンズにスッピン、腕も足も夫より太く、日に焼けて色黒でした。二人で街を歩いていると、どっちが男か女かわからないと言われたことがあります。
結婚前、夫に「僕は男である自分を消したい」と言われました。私の場合は「女である自分を消したい」といつも思って生きていたので、この言葉にすごく共感できました。
夫はいわゆるエックスジェンダーで、性別がない人でした。私はトランスジェンダーで体は女性のままですが、男だという意識で生きてきたからです。
周囲からありのままでいいと言われるのですが、自分は男だと思っているのに世間から女性扱いされることにとても違和感をもって生きてきました。「いや、俺は女じゃない」と、空気を止めるわけにはいかないので胸にはモヤモヤが募ります。もちろん見た目は女性なので相手がそう思うのは当然です。
そんな風に男性と向き合うことができなかった私は、今まで抱いてきたギャップや葛藤、不安も、夫となら分かち合えるかもしれないと思いました。
子どもをもたないと決めている理由
多くの人から聞かれる、子どもをもつことについてはどう考えているのでしょう。
●つねに妻の仕事に寄り添っているから
弥加 私たち夫婦は子どもをつくらないと思います。私たちの関係はファミリーというよりパートナーとして役割をまっとうする方が心地よく生きていけると思うので。
光 僕自身もそうです。僕は弥加さんが一番大切なので、妊娠している間、弥加さんが思いきり仕事をできなくなったり、育児でも多少なりとも仕事に支障をきたすんじゃないかって考えると、積極的になれません。妊娠は女性がするものだから、男の僕に痛みがないというのもつらいです。だから妊娠させてしまうと、僕が弥加さんを傷つけているような気がして…。そういう考えから、僕はそもそも男性が「子どもがほしい」という資格はないと思っています。
――お二人ともお互いを大切に思っているからこその考えですね。
弥加 光くんはとてもやさしい考えの持ち主だと思います。ただ私は肉体的には女なので、子どもを産んでも自分が傷つくとは思ってないし、子どもがいたらうれしいので、仕事はセーブすると思います。ただ、光くんが嫌なことはしたくないので、私たちの間に子どもはできないですね。
光 僕も子どもがいたら困る、ということは決してないです。もし子どもがいたとしたら、弥加さんになるべく負担をかけないように、僕が育てるかも。というか、育児うんぬんの前に、出産する弥加さんのことだけ考えて心配しすぎるのはあると思う(笑)。僕の中では、奥さんがなにより一番だから。