都市生活の利点は、なんといっても便利なこと。徒歩で買い物ができたり、その一方で、公共交通機関で気軽に移動できたり。歳を重ねて、「都会に住んでいてよかった」と感じる人は多いと言われています。今回紹介するお宅は、わずか10坪の敷地に建つ都市型3階建て住宅。50代の一級建築士・宮原輝夫さんが、自分と妻のふたりで暮らすために建てた家です。小さくても大きく過ごせる、そんな家のアイデアを語ります。
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どうしてこんな形の外観になった?
クネクネ曲がった住宅地の静かな小道。その先に、私の家はあります。敷地はわずかに10坪。そのため私は、「小さな敷地に建つ小さな住宅」と名づけました。
建物外観を見て「複雑な形だな」と感じる人もいるかも知れません。なぜこの形になったのかというと、変形した敷地の形に沿ってつくったからです。
角が鋭角だったり、鈍角だったり。ちょっと不思議な形の建物を、グレーのガルバリウム鋼板で包んでいます(平葺きという張り方です)。
角地に立っているので、「本当のサイズよりちょっと大きく見える」とは妻の感想。
一般的に、平葺きは鉄板のジョイント部が2段ごとに同じ位置でそろうのですが、遊び心を加えて、5段ごとでそろうようにしてみました。ちょっとスパイラルな感じで不思議な感じですが気に入っています。小さくて開閉する窓の枠はアルミ、大きめのフィックス窓の枠はスチールです。時間とともに陽の当たる面が変わってきて、建物の印象が変わります。
こちらは玄関です。土間部分には、一面に床から天井までの大きな窓が。玄関の中に入ったはずなのに、まだ外にいる。そんな感覚を味わえます。
左の扉は、私の仕事場への入口。正面の引き戸の先は、居住部への入口です。お互いに土間と扉で分けられているので、家の中の離れみたいな感覚です。職住一致もよいのですが、ちょっとだけ分離させて「職住隣接」といった感じで、仕事とプライベートの区分も、この玄関ならできそうです。居住部への扉には鍵もついていて、「来客のときも、家と別れていて安心」と妻の高評価ももらえています。
2階のLDKは「コンパクトだけど広く見える!?」
3階にあるこの家のLDKは、わずかに9畳ほどの広さしかありません。そこで、現実の広さ以上に開放感が得られるように工夫をしました。
こちらは、ダイニングからリビングの眺め。変形して細長いLDK空間は、対角線の長さが7.5mほど。この距離をすっきりと見渡せるようにプランしたので、視覚的に広さを感じることができます。視線の先に、大きな窓があるのもポイント。室内にありがちの圧迫感を軽減してくれます。
ちなみに、天井高も、いちばん高いところでは3m以上を確保しています。せっかくの勾配天井なので、天井にはなるべく照明をつけないことに。アッパーライトやスポットライトを用いて天井を照らし、間接照明にしてみました。
ひとりがけのラウンジチェアを置いた、くつろぎのためのスペース。夕食を楽しんだあとは、つい居眠りしてしまい、妻に風邪をひかないか心配されています。
キッチンもとてもコンパクト。大物の鍋やフライパンは、つり下げて収納しています。これもインテリアのように見えて、「さあ、料理をするぞ!」という楽しい演出に。
オリジナルデザインのキッチンはステンレス製。グリルや取っ手のない、すっきりしたデザインにまとめました。ツヤのないバイブレーションという仕上げと、扉の隙間の鏡面仕上げを組み合わせています。大きな引出しの内側には、内引出しもつくってあって、たくさんの食器が収納できます。キッチンの上部収納の中には、エアコンも収納。
ベンチは支えなしで壁から跳ね出しているつくりつけに。スペースを有効に使えて、パーティでも活躍しそうです。座面はちょっと硬くて冷たいので、お気に入りの丸型クッションを使っています。ベンチの下に脚がないと、掃除もしやすく便利です。
このように、9畳しかないLDK。でも妻の感想は、「狭いけどとても広く感じる」ということでした。
広すぎない、ということもじつはメリットなのかもしれません。スペースが限られて安直にものを増やせないので、持ち物に振り回されることがなくなります。少ない移動で、作業や家事がすむのも便利。身の丈にあった暮らしができているのだと思います。
洗面所とバスルームも、LDKと同じ3階に。階段を上がった正面にあります。洗面所を兼ねる脱衣スペースは、低めの間仕切りで目隠ししてありますが、上は開いていてリビングと一体です。照明もリビングと共用に。ちょっと遊んで、ステンレスの手洗いを選んでみました。思ったより、空間にマッチしています。
浴室は白とグレーのチェック模様。「もしカビが出ても目立たないかも(笑)」(妻)。この浴室の広さは約2畳。狭く感じないように、ガラス戸を採用しています。