グラフィックデザイナーの西出弥加さんと訪問介護の仕事をする光さん夫妻は、夫婦ともに発達障害という特性をもちながら結婚。そして、結婚早々から別居という道を選んでいます。会う回数は1年に数回。今回、4か月ぶりに会ったお話を聞きました。

桜と夫婦
桜が咲く季節、再会を果たした二人
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発達障害の私たちがあえて距離を取る理由。久しぶりの再会でも…

妻の弥加さんがASD、夫の光さんがADHDの発達障害の特性をもっています。東京に住む弥加さんはグラフィックデザイナーの仕事を、愛知県に住む光さんは訪問介護の仕事をしながら、それぞれが一人暮らしをしています。
昨年コロナ禍もあり会った回数はたったの4回。この春(4月5~6日)光さんが上京し、4か月ぶりの再会を果たしました。久しぶりの再会なのに、なんと1泊で帰ったという光さん。その理由や2人の心境を教えてもらいました。

●月曜の夜に到着、火曜の夜には帰宅

――年に数回しか会わないということですが、今回会うことになったきっかけはなにかあったのでしょうか?

 ずっと前から「春には会おう」って決めていたのと、用事もあったので上京しました。月曜日の夜に東京について、帰ったのは火曜の夜でしたが…。

――わずか24時間の滞在だったのですね。忙しかったのですか?

 もともと水曜の夜から僕は夜勤の仕事があったので、予定通りでした。それに、あんまり長く一緒にいるとさやかさんが疲れちゃうので、東京に行くときはいつも1泊なんです。

――疲れちゃう…と?

弥加

 私が人と長時間一緒にいるのが苦手なんです。そこにすべてのエネルギーを使ってしまうから。それは好きとか嫌いとかではなく、一度に1つのことしか考えられない性質で、光くんと一緒にいるときは光くんのことしか気にかけられなくなって仕事が手につかなかったりするからなんです。仕事をせず、光くんのことだけするなら同居はできます。まわりのみんなは仕事も家事も育児も同時にできているのに、私にはなぜできないんだろうと考えるのは極力やめました、これが私の現状でのキャパシティです。

 僕も弥加さんが嫌がることは絶対したくないから、この先10年会わなくてもいいと言われたらそうしたいと思っています。物理的に会わなくても、弥加さんとは毎日連絡とっているし、今やSNSでなにをしているかを知れるし、遠くからでも安心しています。夫ではあるけど弥加さんをファンのような距離で見ている感じですね。弥加さんの活躍が遠巻きから知れるだけでうれしいです。

●東京に滞在中もずっと一緒に過ごすわけではない

ポーズをとる二人

――会っている時間、積もる話で盛り上がったりするのでしょうか?

弥加

 とくにないです。普段から言葉はそんなに必要ない関係なので。

 たとえば普通の夫婦や恋人なら、仕事のことやお互いの近況報告など積もる話はたくさんあるのかもしれませんが、僕らはそもそも第三者がかかわることを話さないし、お互いがなにをしているかは毎日連絡を取っていて知っています。

弥加

 光くんはすごく私のことを見てくれるから、LINEのやり取りの行間を見ただけでも、「弥加さん、今日は大丈夫?」って調子がよくないときも気づいてくれるんです。この一見、遠そうに見えるアプリだけでの会話の距離でも相手がいろいろ把握してくれているので、心地がいいです。

 滞在中も数時間しか一緒に過ごしてないですね。食事や仕事以外は別行動でした。

弥加

 うん、同じ目的地にいくときもバラバラに出るね。光くんは電車、私は自転車で、みたいな。

――わざわざ別行動するんですね。

 あまり長く過ごしてしまうと、その間に僕がなにかをやらかしてしまうからです。僕も僕で、大切すぎる人と一緒にいると、その人に向き合うことにエネルギーをたくさん使ってしまい、やらかす頻度が段違いに多くなるのです。以前、弥加さんの自宅に泊まったとき、弥加さんが寝ている間にお米を炊いてみようと思ったんですが、炊飯器の説明書を見ても結局炊けなくて失敗してしまって…。寝ている弥加さんに余計な心配をさせてしまったんです。生活のそういうささいなアクシデントって、ADHDの僕は結構な頻度で起こしてしまうんです。自分でも予測ができないから、迷惑をかけるつもりがなくてもそうなってしまう…。

たとえば、移動を一緒にしない理由もそうで、僕が財布を落としちゃったり、電車に乗り間違えてしまったり、トラブルが頻発してしまう。移動時間だけでもそういうことが起きるから、ずっと一緒に過ごしてしまったらどんなことになるか、一緒に住んでいたときに痛いほどわかりました。


弥加

 今現在は、この距離がいいと思います。近い将来、色々と状況も心境も変わり、キャパシティも互いに増えてきて、一緒にいる時間は増えるかもしれません。でも焦って「今スグにこうすべき!」と考えるより、現状を考えた上で、心地いい距離で接していたいです。