●同じ境遇だからって「みんな仲間」と思い込まない方がいい

――いくつも印象的なエピソードが出てくる「赤ちゃん本部長」ですが、竹内さん自身がとくに好きな回や好きなキャラクターを挙げるなら?

好きなキャラは、3巻に出てくる中川さんですね。性別が男性、女性のどちらにも当てはまらないノンバイナリーの子なのですが、社内報の「うちで働く女性社員」みたいな特集に登場させられそうになる。

あの回は、実際に友達が経験したエピソードが元になっているんです。ただ、中川の場合は社内に助けてくれる人が現れますけど、友達は自分で会社に抗議したらしくて。後日、その子が「マンガの中で、もう一人の私が救ってもらったような気分」と感想をくれて、描いてよかったなあ、と思えました。

――中川もそうですし、さまざまなバックグラウンドを持つ人に対して、「もっと認めて理解すべき」と考える人は多いと思います。でも作中では、「無理に理解しようとしなくていい」「理解されたい訳じゃないんだ!」といった言葉も出てきます。「理解」について、竹内さんはどのように考えていますか?

LGBTQ(※)のことに関しては、本当にナーバスというか、複雑で。気づいてほしいような、放ってほしいような…。あくまで私の考えですが。LGBTQを巡る物事はいま急激に変わりつつあるので、レズビアンである当事者の私自身もついていけなくて。当事者の私を置いていかないでよ! と思うことも。

「理解」で言うと、私は当事者じゃない人にも分かってほしいとはまったく思わないんです。でも、同じLGBTQの人に対しては分かってよ! という気持ちがすごく強い。もしかしたら、ママ同士の方が、細かな違いに対して敏感になってしまうのと似てるかもしれませんね。えっ、同じ幼稚園だと思ってたら受験するんだ…みたいな。だから、共通点があるからといって「みんな仲間」と思い込むのはやめたほうがいいのかも。みんな個々で違いますからね。ただ、寂しいときにくだらないことを話して笑ったり、なぐさめあったりする相手がいるのは大事だと思います。

※LGBTQとは…セクシャル・マイノリティの総称のひとつで、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニング(性的指向や性自認が未確定の人)の頭文字をとった言葉。

●口に出せないことは、「交換日記」で伝えるのも手

――方で、自分自身が「理解してほしい」「なんで分かってくれないの?」とモヤモヤを感じたときは、はっきり言葉で伝えたほうがいいのでしょうか。

私自身は、頭に血がのぼるとついキツい言葉を使ったり、余計なことまで責めてしまって、「言いすぎちゃった…」と後悔するタイプ。だから家の壁に「大人しくして、我慢して、やる前に考えて」と書いて貼ってあるんです(笑)。でも私とは反対に、言えずに我慢してつらい人もいるでしょうから。答えが出ない、難しい問題ですね。

でも、気の置けない友達に話すのがいちばんいいのかな。個人的には、ネット上で「交換日記」をしてみたら、すごくよかったです。LINEや電話だと相手はすぐ返事をしなきゃいけないし、重い話もしづらい。でも、日記に書いて「最近悩んでるから、ヒマだったら読んで」とURLを送っておけば、相手の負担にもならないし、書くことで自分も冷静になれる。悩んでいたことも、文章化して客観的に読んでみると、意外とくだらないな、と思えますよね。あ、夫婦間でやるのもいいかも! 面と向かって伝えにくいことも、日記なら言いやすい。「最近、いびきがうるさいけど体は大丈夫?」とか(笑)。身近な人との交換日記、おすすめです。

――3月末からは、「赤ちゃん本部長」がアニメ化するという嬉しいニュースも。楽しみにしている読者も多そうですね。

正直、お話を聞いたときはぜんぜん信じられなくて。正式な発表があるまで、「やっぱりアニメ化はなかったことに…」と言われると思ってました(笑)。でも、私以上にまわりが喜んでくれて。泣いてる子がいたり、友達の親までお祝いしてくれて、ようやく本当なんだな、と実感できました。つくり手の方も、原作の意図をちゃんと汲み取ってくれて、絵柄の雰囲気も生かしてくれて。私自身も放送が楽しみです。

先日、アフレコを見学に行ったのですが、現場はすごく和気あいあいとした雰囲気でびっくりしました。本部長役の安田顕さんは、とにかくかっこよくて、渋くて…かっこよかったです(笑)。ほかのキャラを演じるみなさんも、まったく違和感がなく、色がついて動いて、声を出している本部長たちは、まさにイメージ以上! 「生きてる~!」と驚くばかりでした。正直、「あれ、これ私が考えた作品なのだっけ?」と思ってしまうほど。きっと皆さんにも楽しんでいただけると思います。

アニメ『赤ちゃん本部長』
アニメ『赤ちゃん本部長』©竹内佐千子・講談社/NHK・NEP・テレコムスタッフ
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アニメ「赤ちゃん本部長」

3月29日(月)前0時40分~1時20分(日曜深夜)※5分×全8話
NHK総合で放送
声の出演:武田本部長役 安田顕(俳優)ほか
テーマ曲:「また明日 逢いましょう」作詞・作曲 前山田健一、歌 ヒャダイン
アニメーション制作:Tomovies 制作:NHKエンタープライズ 制作・著作 :NHK テレコムスタッフ

アニメ『赤ちゃん本部長』は、いよいよ明日28日(日)深夜(※29日(月)前0時40分~)に8話一挙放送! その前に、第1話を読んで予習しましょう!

漫画1
©竹内佐千子・講談社