●他国を見て気づかされる当たり前じゃなかった私たちの暮らし
すべての画像を見る(全6枚)――ディープな部分に入り込めば入る込むほど、楽しいことばかりではなく、その国で起きている現実と向き合うことも多いですよね。
高橋そうですね。今から9年前のカンボジアだと、まだ戦争の傷跡が如実に残っていたり。歴史や背景なども学んでその土地を感じるので、旅をしていてしんどくなることもありますね。ちょうど高度成長の波が来ていた東南アジアだと、先進国を追いかけて山を削りビルが建てられ、自然が失われるのを目の当たりにしました。先進国が辿ってきた道ではあるけれど環境問題は深刻だと感じました。でも、経済的な発展で、貧しかった子が学校に通えるようになったり、医療も受けやすくなるでしょうし…なにが正しいのか、その両立はないのか考えさせられましたね。タイの地方のある町では濁った川で、「ときどきここでは子どもがワニに食べられてしまう」って聞かされたり、信じられないような危険と隣り合わせの国もあるんだって。
一方で、タイの首都バンコクには大きなデパートがあったりお金持ちが住む土地はあります。衝撃的だったのはデパートのマックのポテトが、田舎で食べていたラーメンの3杯分くらいの値段だったことですね。こんなに暮らしの差があるなんて…。日本だと場所でそこまでの差はないですよね。田舎での生活はとても豊かでしたし、どちらがいいというわけではないのですが、私はやっぱり観光だけでは見えない世界の根っこの部分を知りたいですね。
――他国の暮らしを見て、自分にとって当たり前じゃなかったことに気づかされるんですね。
高橋たとえば、水もそうですね。日本のように真水が飲める国って世界の数%しかないらしくて。リトアニアもITの進んだ国だけど、そこで出会ったおばあさんが「ちょっと水飲んでくるね」って公衆トイレの手を洗う水道水をそのまま飲んでいたのが目から鱗で。そう言えばペットボトル持ち歩いている人いないなと。私たちも真似して飲むようになりました。日本に帰ってからもクセでしばらくはトイレの水道水飲んでました(笑)。今は水筒を持ち歩いてます。他の国を見ることで、自分自身の生活を鑑みられるっていうのが、大きい経験ですね。
数年前、実家の改築をしてくれた大工さんの弟子に、ベトナム人技能実習生のザンくんという青年がいて。彼の結婚式に出席するためベトナムの南の方にある実家に行ったことも書いていますが、ホーチミンからかなり離れたジャングルに囲まれた田舎町で、こんな遠くから日本に来てくれているんだなと思いました。今、ザンくんの奥さんと産まれたばかりの赤ちゃんはベトナムにいて、離ればなれに暮らしています。実習生として認められているザンくんしか日本に住むことができないそうなんです。家族なのに離ればなれに暮らさなきゃいけないことがとても気の毒で…。
このご縁がなければ出会うことのなかった方の結婚式に参加して、ベトナムがとても近くなりました。ベトナムの田舎町から日本に出てきて、働いてくれる人がいるんだということや、そういう人たちの手を借りて日本の今があるというのを忘れてはいけないと思いましたね。行ったからこそ考えるようになりました。
●人の心を動かすのはやっぱり人とのかかわり
――日本を旅していても、いわゆる観光ではなく、秘境の温泉地に足を運んで、方言が強めの方と積極的におしゃべりをされていますね。
高橋それもカンボジアとかタイで培ったものでしょうね。やっぱり観光では満足できないから、同じようにインフォメーションセンターに行って、「観光ではなくて、あなたが好きなうどん屋とか温泉を教えていただけませんか」って聞いちゃいますね。そうするとやっぱり楽しいことに出合えます。
直のコミュニケーションで生まれるものって大きいですよね。海外や国内でも旅をしていて、一人でご飯を食べていると、だいたい隣のテーブルから「お姉さん、どこから来たん」って会話が生まれたり。今は、コロナ対策で食事は「黙食」だから、今後の旅の食事にも影響はあるかもしれませんね。
いろいろ旅をしてきましたが、より心に残っているのは人でしたね。景色を見て感動もするけれど、10年たっても覚えているのって、やっぱり出会った人たちだったりしますね。コロナで世界中が深刻な状況ですが、「あの人たちは大丈夫かな」って心配したり、海外で地震や山火事があったときに前より親身になるのも、国ではなく人と人として出会ったからだと思います。これからもそういう旅がしたいです。