作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。クリスマスシーズンの今回は、旬のリンゴを使ったアップルパイと、ユーカリを使ったリースのつくり方を教えてもらいました。

第35回「オリジナルのクリスマスを楽しもう」

暮らしっく
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●今年もクリスマスがやってくる

ラジオ収録のため、久々に渋谷の街を歩いていた。WAHM!(ワム!)の「ラスト・クリスマス」が閑散とした街に鳴り響く。あ、そうか、もうすぐクリスマスなんだな。すっかり忘れていた。イルミネーションが申し訳なさそうに光っている。ショーウィンドウの中をラッピングされたプレゼントが並ぶ。今年は浮き足立てない寂しさがあるけれど、むしろ街を明るくしてくれてありがとう。私は、温かい気持ちになりながら家へ帰った。

箱にたくさんのリンゴ

数日後、一足早いサンタクロースがやってきた。青森でリンゴ農家をしている友人からダンボールでリンゴが届いたのだ。毎年、実家のミカンと物々交換していて、冬の恒例の楽しみになっている。

カットしていただくと、瑞々しく濃くてパリッとした歯ごたえで、新鮮そのもの。愛媛出身で、しかもミカン農家の私にとって、リンゴは子どもの頃から貴重な存在だった。家に山ほどミカンがあり、しかも旬の季節がかぶるので、リンゴを食べることがあまりなかったのだ。それに、当時スーパーで買うリンゴはやわらかくて、ぽかっとしてあまりおいしくなかったようにも思う。

その、ぽかっとしたリンゴで、クリスマス頃に母はよくアップルパイを焼いてくれた。シナモンやお砂糖バターとリンゴを煮て、パイ生地をこねて網目を作る。シナモンとリンゴの甘くてスパイシーな匂い。きつね色のパイ生地。私にとって、こんがり熱々のアップルパイは特別なおやつだった。

●冬のおやつ、熱々アップルパイ

アップルパイ

そうだ、アップルパイを作ってみよう。冷凍庫に市販のパイ生地があったのを思い出した。こんなに新鮮なリンゴでつくるのはもったいないよな、でもアップルパイが食べたい、食べたい!

リンゴを16等分にし、鍋に入れ、砂糖大さじ2をかけて火を付ける。あ、先に市販の冷凍パイ生地を常温に戻しておくことをお忘れなく。鍋にかけたリンゴから水分が出てくるので、そのまま煮て色が少し茶色くなってきたらバター10グラムを入れ、シナモンパウダーをかけ、蓋をあけたまま水分を飛ばしながら煮込む。このとき香り付けにレモン汁やブランデーをたしてもおいしい。

解凍した生地に、鍋のリンゴを載せ、細く切ったもう一枚の生地を交互に編んで、リンゴにかけていく。900wくらいにしたオーブントースターに入れ10分くらい焼いたら出来上がり。パイ生地が焦げやすいので注意してね。

焼きたてのアップルパイから湯気が立ちのぼって。ふーふーしながら口に入れると、芳しくて酸味もあってなんと幸せな味でしょう。歯ごたえがあるのが、新鮮なリンゴならではだ。添えたバニラアイスが熱で溶けて、すくいながら一緒に食べるのがたまらなかった。

お家でのクリスマスパーティにもいいし、オーブントースターで焼けるので、冬の気軽なおやつにもいいね。

●家のユーカリで手作りリース

ある日、ユーカリを剪定していた。地植えにしたら夏にぐんぐん成長し、切っても切っても伸びて今じゃ2階まで届いている。これでリースを作れないかなあと考える。もちろん作ったことなんてないんだけどね。でも円形になっていればいいのだから、自分でアレンジして適当にやってみることにした。教わることもせずに好きなように作りたい気分。食卓を図工室にして、自由に遊んでみる時間はいくつになってもワクワクする。

まず、ユーカリの枝で円を作って繋ぎ目を麻ひもで結ぶ。そこに、どんどんと色んな枝を巻きつけたり挿したりして何本かをまとめてまた麻ひもで結んでいく。ユーカリ、パールアカシアや、四季咲きアカシア、三角葉アカシア、オリーブ、ローズマリー、南天の赤い実もかわいいなあ。家にある色んな木の枝をちょんちょんと切って継ぎたしていく。やわらかい枝が円にしやすいなあとか、これは定着しないなあとか、ただの円にするより多少飛び出している方が奔放でいいなあとか、やっていくと分かってくる。こうしなきゃいけないという決まりや、正解も間違いもないのでだれの真似もせずに好きにやっていい。

ドアにリース

試行錯誤しながら、夢中になって手を動かす。最後に南天の実を挿したらできあがり。結局、必要なのは木の枝と麻ひもだけだった。ものの20分でつくってしまった…。なかなかのワイルドさ。もさもさしていて、かっこいいじゃないか。玄関のドアに飾ってみると、おおー、いい感じ。友達にあげる分もいくつかつくった。

ユーカリの涼しい匂いでいっぱいの部屋。今年ももうすぐ終わるんだなあ。やり残したことを数えるのはやめにして、来年にもちこすかな。

アップルパイと手作りリースだけで、すっかりクリスマス気分だなあ。玄関のドアを開けるのが楽しくなる冬だ。石油ストーブの上で、お湯がしゅんしゅん沸いている。

【高橋久美子さん】

1982年、愛媛県生まれ。作家・作詞家。近著に、詩画集

「今夜 凶暴だから わたし」

(ちいさいミシマ社)、絵本

『あしたが きらいな うさぎ』

(マイクロマガジン社)。主な著書にエッセイ集

「いっぴき」

(ちくま文庫)、絵本

「赤い金魚と赤いとうがらし」

(ミルブックス)など。翻訳絵本

「おかあさんはね」

(マイクロマガジン社)で、ようちえん絵本大賞受賞。原田知世、大原櫻子、ももいろクローバーZなどアーティストへの歌詞提供も多数。公式HP:

んふふのふ