作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。今回は、料理好きの久美子さんが台所で使っている道具について教えてくれました。

第27回「台所の七つ道具」

暮らしっく
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●料理好きは道具にもこだわり、長く使う

台所は、料理が好きな人にとって自分の秘密基地のような場所。わが家は、私も夫も料理が好きなので、縄張り争いのようになる。夫が料理した後は、スパイスがいつもと違う場所に入っていたり、しゃもじが行方不明だったり。「ちょっと、あれどこやったー?」がお互いに多くなる。「これはここね」と配置を決めても、その通りにいかないこともよくあって、まあこれが共同生活ってやつなんだよね。

調理器具

料理が好きとなると、お互いに道具も好きだ。包丁、フライパン、鍋、ボウル、おたまに台拭き…台所を見渡せば実にさまざまな道具に囲まれていることに気づく。それぞれが愛用していたものを持ち寄ったので、結婚するからと特別に買い足したものはあまりない。

<長く愛せるものを買う>これが二人とも生活の根底にあるから、無理して買わず、これだ! と思ったものに出会ったタイミングで買うようにしている。人も物も、出会いって最も大事だ。どちらかが旅先で惚れ込んで買ってきたり、私が大学の頃から愛用しているものも沢山ある。かれこれ20年使う鍋も、金ざるも、すりこぎも、まだまだ現役で働いてくれる。

長く使えば、手に馴染む。「この料理ならこの鍋がいい」とイメージがさっと湧いて、一番のサポーターになってくれる。そして何より料理に心が入る。

せわしない日々の中、台所に立つ時間が、なるべく友人に会うようなリフレッシュの時間になるといいなと思う。

●地方で買って重宝している竹のざると箸

竹のざる

例えば、この竹のざる。右のものは長野県の戸隠に友人たちと行ったとき、ふらりと立ち寄った竹細工の工房で買った。職人さんが竹を小さなナタで細かく細かく割いて、一本一本を編み込んで全て手作業で作る。「150年経ったものだよ」と見せてくれたざるは、綺麗な飴色になって、それでもまだ使えると言う。少々お値段は張るが、きっと私がおばあさんになるまで使うのだから日割り計算すれば安いもの。素麺を入れたり、茹で野菜を受けたり、なくてはならない道具だ。

左のは、一昨年ベトナムに行って竹細工商品を売っている問屋街で買った。右のざるの10分の1くらいの気軽な値段だ。大きいので、梅干しや、みかんの皮を干すのに丁度いい。

竹と言えば、とっても丈夫なのが沖縄で買った、赤と黄色の竹箸「ウメーシー」である。かれこれ10年前、国際通りで10セット300円くらいで買った。毎日のご飯の時に、気軽に使っているがとにかく丈夫で、10年経っても曲がったり削れたりすることなく、口馴染みもどんどん良くなっていく。ウメーシーは沖縄伝統のお箸で、沖縄居酒屋なんかにいくと必ず出てくるが、昨年、生産していた鹿児島の工場が廃業になり、もう手に入らないかもという事態になったそうだ。現在は新しく沖縄県内の工場が生産をスタートし、沖縄の人も安心したとニュースで聞いた。道具って、一つ一つ誰かが作ってくれているもので、ずっと手に入るという保証はないのだ。一期一会なんだなと思うと、やっぱり愛着を持ち大事に使いたい。

こんなふうに、旅先で買った道具が殆どだ。名器は名産地で買うに限る。東京で買うより安く手に入り、そのときの思い出も詰まっていれば、毎日の料理も二倍楽しくなる。

●おろし生姜もすっきり取れる竹のはけ

これは一家に一台あると便利だよとオススメしたいのがこちら。

竹のはけ

生姜を下ろしたときに、シャッシャとかき集めてくれる、竹のはけだ。これも随分前に京都で夫が買ってきたもの。水に濡らして先を柔らかくして、おろし金を掃いていけば、挟まった生姜がすっきり綺麗に取れる。柚子やすだちの皮を最後の仕上げに散らすのにも便利だ。日本人って繊細な道具を使って料理するものだなあ。忙しくて殺気立っているときに、このような繊細な道具を使うと、リセットされて落ち着いていくのがわかる。その丁寧な所作が、心に届いていくのだと思う。

台所を見渡してみたが、プラスチックの道具は殆どない。昔はあったんだけれど、長く使っていくにつれて劣化して捨てていき、竹や琺瑯(ほうろう)、ガラス瓶、鉄等の昔ながらの素材だけが残った。買い足すものもプラスチック製品はジップロックくらいになった。あれは便利だよね。その道具の特性を見て無理せずに仲良く付き合っていくのが一番だ。

●毎日のご飯を炊くSTAUB鍋

STAUB鍋

このSTAUBも随分と働き者で、毎日のご飯もこの子か、人数が多い時は土鍋で炊く。炊飯器は6年前に卒業した。面倒くさそうに思われるが、他の料理を作りながら20分もあれば炊きあがるので慣れたらちょちょいのちょい。鍋敷きにしているのは、ラトビアで買ったまな板だ。これも一石三鳥くらいしてくれる便利な道具。まな板としてチーズや果物をカットし、お皿にしてそのまま出すこともできるし、鍋敷きとしても使える。

●水滴もしっかり吸収する木頭杉のコースター

木頭杉のコースター

徳島県の那賀町という山に囲まれた町の木材製作所KUKUさんの木頭杉のコースターも、本当に重宝している。無垢材だから、ガラスコップから落ちる水滴も吸収しすぐ乾くし、少し大きめでしっかりしているので、お鍋やバットを置くのにも使ったりしている。もちろん、熱々の鉄鍋を置くときは、大学の頃から使っている強靭なクマさんの鍋敷き(昔おばあちゃんがお土産でくれた)なんだけれどね。

●お客さん用のカトラリー箱

お客さん用のカトラリー箱

そうそう、お客さん用のお箸やスプーン、フォークなんかは、レストランみたいに箱にまとめておくと、さっと出せて便利だ。いざ来客のあったときに、お箸がぼろぼろということってあるもんね。私は、2セットずつ入れて棚の奥にしまっている。

●くり返し使える蜜蝋ラップ

蜜蝋ラップ

最近買ったもので良いなと思ったのは、蜜蝋(みつろう)で作られたラップだ。スーパーのレジ袋も有料になったけれど、家庭でもプラスチック製品を使わない生活を心がけていきたい。一年前くらいに購入して毎日使っているがびくともしない。ラップほどの密着度はないが、そのくらいはご愛嬌。小さいお皿から、大きなボールまで包んでくれる優れものだ。

全てを変えることは難しいけれど、面白いなと思えるものからトライしてみるのは、楽しい。

一人暮らしを始めてから、かれこれ20年。いろんな道具に出会い、暮らしを共にしてきた。良い道具は、使いながら育てていけるもの。いや、育てられているのは私の方かもしれないな。これからも、どうぞよろしくお願いします。

【高橋久美子さん】

1982年、愛媛県生まれ。作家・作詞家。近著に、詩画集

「今夜 凶暴だから わたし」

(ちいさいミシマ社)、絵本

『あしたが きらいな うさぎ』

(マイクロマガジン社)。主な著書にエッセイ集

「いっぴき」

(ちくま文庫)、絵本

「赤い金魚と赤いとうがらし」

(ミルブックス)など。翻訳絵本

「おかあさんはね」

(マイクロマガジン社)で、ようちえん絵本大賞受賞。原田知世、大原櫻子、ももいろクローバーZなどアーティストへの歌詞提供も多数。公式HP:

んふふのふ