●後年、配偶者居住権を処分しようとすると困ったことに…
後年、実親の介護のため、路子さんに居所を変更する必要が出ました。
それにあたって自宅敷地の配偶者居住権を処分しようと思いましたが、配偶者居住権はそれだけを処分できない制度であることを、そのときに知ったのです。
義母はすでに亡くなり、二男に制限つき所有権は移転していたところ、幸いなことに二男は一緒に売却することに協力的でした。
「よかった。二男と一緒に自宅を売却して、私の権利相当分のお金をもらえばいいのね」と路子さんは思います。
しかし、実際に売却するとなると、まず路子さんが配偶者居住権を、制限つき所有権者である二男に対し放棄する必要があります。
続いて二男が完全権利者として自宅を売却後、その売却代金を路子さんに分配。
そのため、放棄時と分配時に二重の贈与税(放棄時には二男に贈与税、分配時に路子さんに贈与税の課税)がかかる羽目に。
今後の生活費として受け取るべき配偶者居住権の換価金が、かなり目減りすることになってしまいました。
●路子さんはどうすればよかったのか。配偶者居住権に頼らない解決策も
配偶者居住権は、親族関係の希薄な現代社会において、配偶者の住む権利を確保するための革新的な改正です。そんななか、専門家の間では、
配偶者居住権の評価の仕方に関心が高いようです。相続税の節税スキームになり得る、というのもその一つです。
しかし、本当の課題は、その
処分性の低さにあります。人生100年時代、だれもが終身まで自宅で暮らすかというとわかりません。現在の税制においては、
換金の際に余計な税金がかかることが、今回の事例でもわかります。
中途の換金に優しくない制度と言えます。
配偶者の終身までの生活設計なくして、配偶者居住権の安易な利用は控えるべきかもしれません。
配偶者の居住権を確保してあげるためには、夫が、
(1)遺言 (2)代償金原資の生命保険の手当てをしておいてあげることが、相変わらず王道であると思います。