「地元パン」がブームです。全国各地のその土地・その店ならではのパンが人気を集め、遠くから買い求める人も。
「地元パンのお店は、駅前、商店街の中、学校の前…どんな場所にあるか、その環境にも注目してみるとおもしろいです。多くが地域に密接した場所にあることがわかります」と語るのは、地元パンをこよなく愛するエッセイストの甲斐みのりさん。
今回は、京都の昔ながらの商店街の中にあるパン屋さんを教えてくれました。
昔ながらの商店街の中にあるパン屋さん。京都市伏見区「ササキパン本店」
子どもの頃から朝食はパン。一人暮らしを始めた大学4年間は、スーパーやコンビニでパンを調達していたけれど、大学卒業後に京都暮らしを始めてからは、週の何度かは起床後に歩いて、近くのパン屋に焼きたてのパンを買いに行くようになりました。
パン好きが加速したのはその時期から。研究生として大学に籍を残しながら、昼・夜とアルバイトに通う日々。ぜいたくはできない暮らしのなか、まだ温かい焼きたてのパンを3~4つに切り分けて、朝の食卓でちょっとずつつまむ時間は、至福のひとときでした。
「この間、京都の伏見で酒蔵巡りをしたのだけれど、昔ながらの商店街を通ったら、みのりちゃん好みのパン屋さんがあったよ」
そう教えてくれたのは、私が京都に足繁く通っていることや、地元パン屋巡りをしていることをよく知った友人。伏見には酒蔵目当てに何度か訪れているけれど、そのパン屋さんには気づいていませんでした。
話を聞いてからしばらくして、京都行きが決まっていたので、さっそく伏見まで足を延ばすことに。
●昭和30年代からほとんど同じラインナップ。変わらないことが愛おしい
歴史をさかのぼれば豊臣秀吉の時代にたどり着く、昔ながらの商店街の中に「ササキパン本店」はあります。
夕方前にたどり着いた、ササキパン本店。パンは早い時間に売れてしまったようで、棚やショーケースはすっきり。けれども、入口に積んだ番重(パン箱)には、いろいろな種類のパンが並んでいます。
「あ! メロンパンとサンライズ!」
思わず感嘆の声をあげたのは、関西独特の2種類のメロンパンがそろっていたから。
ラグビーボール型メロンパンと、サンライズと呼ばれる網目のついたメロンパンは、関西独自のもの。
東京の友人に、中に白あんが入ったラグビーボール型メロンパンをおみやげに差し出すと「これがメロンパン!?」と驚かれます。しかしこれこそ関西に根づく、昔ながらのメロンパンの形。
袋に「全糖」と文字があるのは、このメロンパンが誕生した昭和30年代、まだ砂糖が珍しかった時代の証です。
対して、網目のついたメロンパンの袋に、サンライズと書いてあるのには、多くの人が不思議顔。
関西ではもともと、ラグビーボール型のメロンパンが主流だったので、区別をつけるために網目がついた方には、サンライズと別の呼び名をつけたのです。
この2種類のメロンパンは、関西みやげとして大いに喜ばれます。
そのほかにも、どのパンも、そしてパン袋も、存在感がありながら愛らしく、愛嬌がにじむいい顔ぞろい。
聞けばそのほとんどが、昭和30年代から変わらず引き継がれているデザインとのこと。
どっさりパンを買い込みつつ、郷愁へといざなわれる納屋町商店街を歩きました。
●初めてなのに懐かしい!納屋町商店街を歩いてみました
「ササキパン本店」があるのは、伏見の「納屋町商店街」。一帯の歴史は古く、なんと豊臣秀吉が伏見城を築城した安土桃山時代にまでさかのぼります。
元は「帯刀町」と呼ばれる城下町として格式を誇り、その後「納屋町」と改称されたそう。
明治42年には納屋町進商会が発足し、翌年には「鉄柱アーチ型全覆式日覆い」が完成。
現在はパリの「パッサージュ」をイメージしたアール・デコ風のアーケードが。すぐ近くには幕末の寺田屋事件で知られる「寺田屋」もあり、多くの観光客でにぎわっています。
パンがつまった番重が店先に置かれているのも、いい味。
看板やパン袋に描かれるお城マーク。洋風ですが、伏見城を表しているのでしょうか。
関西ならでは!ササキパンのメロンパンは2つの形
ラグビー型と丸いおなじみの形。ササキパンに行ったらぜひ食べていただきたい2つのメロンパンをご紹介します。
●ラグビーボール型「メロンパン」
昔、マスクメロンが一般的になるまでは、一般的にはマクワウリが食べられていました。
そんな由来からも、関西の老舗パン屋のメロンパンは、ラグビーボールのようなマクワウリの形です。
中に白あんが入っているのも、昔ながらの関西スタイル。
●朝にぴったり「サンライズ」
いわゆるメロンパンですが、関西の昔ながらのパン屋では、「サンライズ」と呼ばれています。
日の出の名をもつ丸いパンは、牛乳と好相性。ほのかな甘さが、まだ眠たい体をシャキッと目覚めさせてくれます。
●今回の地元パン
・店名 ササキパン本店
・住所 京都府京都市伏見区納屋町117
・電話 075-611-1691
・営業時間 7:00~19:00
・定休日 火曜日
・URL
【甲斐みのり】
静岡生まれのエッセイスト。大阪、京都と移り住み、現在は東京にて活動。旅、散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨などを主な題材に、書籍や雑誌に執筆。まち歩きや手みやげ講座など、カルチャースクールの講師もつとめる。著書は
『地元パン手帖』(グラフィック社刊)、
『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)、
『全国かわいいおみやげ』(サンマーク出版)など40冊以上。ホームページ
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