今、“地元パン”がブームです。全国各地のパンを遠くから買い求める人も。

「昔から地域で愛されているようなパン屋さんが大好きで、全国各地を旅しています。電車を乗り継いだり、初めての町を歩いてたどり着いたお店で出合えたパンを口にすると、旅の疲れも吹き飛びます」と語るのは、エッセイストの甲斐みのりさん。

今回は、奈良県桜井市の「マルツベーカリー」で食べたあんこ入り揚げパン、“アンフライ”の思い出を語っていただきました。

マルツベーカリー
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疲れた体に甘さと油分がしみ込む!ハイカロリーなあんこ入り揚げパン

私が初めてお会いする人に「どちらの出身ですか?」と、つい聞いてしまうのは、その人にとっての地元パンを教えてほしいと思うゆえ。

学生時代に学校の売店で販売していた思い出のパンや、毎日のように部活帰りに食べたパンの話をするとき、みんな焼きたてのパンのようにふっくらといい顔をするのは、きっと青春時代の懐かしい思い出がつまっているからなのでしょう。

そうして話題にあがった、初めて知るパンや店があると、「いつか行ってみたいパン屋リスト」に書き加え、頭の中の地元パン日本地図に星印を描きます。

桜井駅前「マルツベーカリー」の名物パン「アンフライ」。

奈良県桜井市出身の人と話す機会があったとき教えてもらったのが、桜井駅前「マルツベーカリー」の名物パン「アンフライ」。

「高校時代って、どうしてあんなにおなかがすいていたんでしょうね。今でこそカロリーを気にしてしまうけれど、昔は高カロリーのパンやお菓子は、部活や塾の前後、むしろありがたかった。アンフライは、あんこ入りのサンドイッチを油で揚げているんですけど、ジュワッと油がしみ込んだパンと、中身のあんこが絶品で」

饒舌に語る彼女の顔は、なんとも幸せそう。「アンフライは買ってすぐに食べるのがいい」と聞いたので、奈良を旅することがあったら、桜井まで足をのばしてみようと思っていました。

●やっと訪れたマルツベーカリーのかわいらしい外観に興奮!

 
機会がやってきたのはそれから2年ほどたってから。奈良市内で仕事を終えた翌日、大阪・京都へ向かう前に、桜井駅へと向かうことに。

マルツベーカリー

「マルツベーカリー」があるのは、「桜井駅」のすぐ目の前。ストライプのテントに、ウロコ模様の白い壁。楕円状のガラス窓の上には、黄色い花のような照明が行儀よく並んでいます。

いい顔のパン屋

「わあ、なんて愛らしい!」

パンへの親しみを込めて日頃から、独特な表情のあるパンやパン屋を「いい顔のパン」とか「いい顔のパン屋」と表現しているのですが、可憐な乙女のように愛らしいマルツベーカリーの外観に静かに興奮。

カウンター後ろの壁には、ステンドグラスや昔ながらの看板も。

お店に入ると、カウンター後ろの壁には、ステンドグラスや昔ながらの看板も。お店の方とお話をして、写真を撮らせていただきました。

今の私にとって地元パンは、アイドルと同じような存在なのです。

棚に並んでいるパンもまた、私が少女時代に夢中になった、昭和のアイドルのように愛らしい衣装(パン袋)をまとっているではありませんか!

パンの名前も、袋の字体やデザインも、ときめきと懐かしさを呼び起こす秀逸なものばかり。そう、今の私にとって地元パンは、アイドルと同じような存在なのです。

●あのあこがれのアンフライにようやく出合えた!

しかしながら、棚の中に、お目当てのアンフライは見つかりません。聞けば今つくっているところで、あと30分ほどかかるそう。

あのあこがれのアンフライにようやく出合えた!

再びお店を訪れると、できたてのアンフライがちょうど棚に並びはじめたところ。通常の2枚入りのほかに、食べやすいミニアンフライもあります。

揚げたてを食べたくて、駅のベンチでさっそくパクリ。

サクッと油で揚げた食パンと、みずみずしくなめらかなこしあんの組み合わせの妙。

まったり落ち着くあと味で、旅疲れの体にじんわりと、甘さと油分がしみ込みます。

部活帰りの学生たちも、この味に力をもらってきたのだろうな。初めて口にしたのに、不思議と懐かしさがこみあげ、一気に平らげてしまいました。

中のこしあんは、あんこ屋と試作を繰り返し、アンフライ専用のあんを生み出しました。

お店の方に伺ったところ、アンフライは、昭和23年の創業時から70年もの間、地元で愛される名物パンなのだそう。

中のこしあんは、あんこ屋と試作を繰り返し、アンフライ専用のあんを生み出しました。

戦後の食糧難の時代に、あんこの甘さや揚げパンは、どんなにかぜいたくだったことでしょう。そうして今も変わらず長年のファンがいることが、なによりもそのおいしさを物語っています。

●今回の地元パン

・店名 マルツベーカリー
・住所 奈良県桜井市桜井196
・電話 0744―42―3447
・営業時間 7:00~売り切れ次第終了
・定休日 日曜日

【甲斐みのり】

静岡生まれのエッセイスト。大阪、京都と移り住み、現在は東京にて活動。旅、散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨などを主な題材に、書籍や雑誌に執筆。まち歩きや手みやげ講座など、カルチャースクールの講師もつとめる。著書は

『地元パン手帖』

(グラフィック社刊)、

『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』

(エクスナレッジ)、

『全国かわいいおみやげ』

(サンマーク出版)など40冊以上。ホームページ

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