厚生労働省の「婚姻に関する統計」によると、2015年に結婚した夫婦のうち、両方またはどちらかが再婚だった割合は26.8%。離婚や再婚への抵抗感が薄くなり、近年はこのトレンドが上昇傾向にあるといわれています。そうした背景があるからなのか、「子連れで再婚しました」という関係者をもつESSE読者もちらほら。新たな親子関係を築いて温かい家庭をつくる人たちが多くいる一方で、なかには遺産相続のときに大きなトラブルを抱えてしまったケースも。今回は、「特別な財産なんてないから」と油断していたために、トラブルに直面したESSE読者の体験記をご紹介します。

遺産めぐり

父のわずかな遺産をめぐり自分勝手な異母姉が「裁判する」と言い出した!

<体験者DATA>
鈴木若菜さん(仮名)香川県・38歳
●3人の子どもがいるバツイチの父が、母と再婚。連れ子は母との養子縁組を拒む。父が亡くなり、少額の遺産は相続しないことできょうだい間の意見はまとまりかけたが、上の異母姉が納得せず、裁判を起こそうとする

私の両親が結婚したとき、父はバツイチで、娘2人と息子1人を連れていました。上の異母姉は私より17歳年上、次の姉が15歳上、異母兄は14歳上で、父と母が再婚するときには、3人とも思春期ど真ん中。「本当のお母さん以外は、私たちのお母さんじゃない」という理由で、異母姉たちは、母との養子縁組を拒んだため、母との戸籍上のつながりはありません。こんな複雑な家庭ですが、私が結婚し家を離れた今も、家族仲は良好です。ただ、上の異母姉だけは例外。昔から自分勝手な人ではあったのですが、大人になってから、父から400万円を借金(※1)したのに、いつまでも返さないのです。返すよう促しても、「なんで返さなあかんの?」と逆ギレする始末。みんながこの異母姉に不満を感じ、いつの頃からか家族全員が距離をおくようになっていました。

父に400万円借金し、そのうえ踏み倒し!そんな異母姉が、さらに金銭を要求!

父は2011年にがんを患い、5年間の闘病の末に亡くなりました。自宅で商売をしていた父は、自分亡きあとの母の生活のことを考えたのでしょう。母がこのまま自宅で商売を続けられるよう、生前贈与で自宅や預金を計画的に母に譲って、母名義の財産を増やしていました。その結果、昨年亡くなったときには、父の手元には現金が100万円あるかないかでした。ですから遺産相続もすっきり終わるはずだったんです。100万円の2分の1を母へ、残りをきょうだい4人で分けたら1人10万円ちょっと。こんなに少額なら、遺産分割せずに取っておいて、法事やら今後の親せきの集まりの費用に使えばいいねと、相続をせず、遺産の管理を母にまかせることで、意見が一致しました。

ところが、いちばん上の異母姉だけがこの場におらず、事後報告したところ逆上。「お父さんには自宅、預貯金、株券などまとまった財産があったはず。私にはそれをもらう権利がある。裁判するつもりで弁護士も探してある」と、けんか腰で言ってきたのです。それで四十九日の日に、親せき一同が集まったところで、異母姉に父が100万円しか残さなかった事実をつきつけました。わずかな額のために裁判をするのか? しかもあなたは、借金を返していない。これは、特別受益(※2)になり、あなたはすでに特別に400万円もらっているわけだから、いずれにしてももう取り分はありませんよ、と伝えたのです。事実を知った異母姉は、さすがにしゅーんとして引き下がりました。この件は解決しましたが、下の異母姉と異母兄は未婚で子どもがいないため、2人が死んだら遺産は上の異母姉と私が相続することになります。「1円でも異母姉に遺産を残したくない」と、私が全額相続できるよう2人は準備するつもりだそう。ありがたいけど、家族がこじれて複雑な気分です。

●弁護士・比留田さんからのアドバイス

異母姉の受け取った400万円が、もらったのか借金なのかで、扱いが変わります。贈与であれば、異母姉だけ先に財産をもらった特別受益。それを返せということにはなりませんが、遺産の新たな取り分はゼロです。一方借金であるなら、ほかのきょうだいは債権を相続したことになり、400万円の4分の1ずつ請求することができます。最近増えているのは、財産が少なくてもめるケース。家庭裁判所にもち込まれた遺産分割で、相続財産か1000万円以下のケースは3割以上と、じつはいわゆる“普通の人”にとって、相続は身近な問題なのです。遺言書を残すなどして、しっかりと対策をしておきましょう。

【解説】

※1:借金
生前の被相続人から相続人が借金をしたまま亡くなってしまった場合、これが借金であるのか贈与であるのかで法的な扱いが大きく変わります。借金の場合は、被相続人が金銭消費貸借契約書(借用書)を残しており、かつ時効にかからなければ、ほかの相続人はこの借金の返済を請求できます。ただ、請求をせずに10年たってしまうと時効が成立してしまうので注意が必要です。一方、当初は借金のつもりだったけれど、返さなくていいよ、という話に親子間で変わる場合もあるでしょう。これは生前の贈与となり、後述する特別受益として扱います。どちらになるかは、そのときの事実関係で決まるので一概には言えません。

※2:特別受益
被相続人が存命中に、特定の相続人が、ほかの相続人より特別に得た利益は、特別受益にあたります。これはいわば、相続財産の前渡し。たとえば、被相続人の長男と長女が相続人で、長男は被相続人の生前、住宅資金の援助として2000万円贈与され、長女がなにも贈与を受けていなかったとしたら、長男と長女の遺産を、法定相続分の2分の1ずつ分けたのでは不公平です。民法では、不公平が生じないように、特別受益分を相続財産の前渡しとみなして、相続財産の価値に加えたうえで、特別受益者の相続分から差し引きます。これを「特別受益の持ち戻し」といいます。ただし、特別受益者以外の相続人全員が遺産の分割に際して、「特別受益分は考慮しない」と認めた場合は、財産に含める必要はありません。被相続人の遺言書に「特別受益の持ち戻しは免除する」と書いてあった場合も同様です。