グラフィックデザイナーの西出弥加さんと訪問介護の仕事をする光さん夫妻は、夫婦ともに発達障害という特性をもちながら結婚。そして、結婚早々から別居という道を選んでいます。お互いに居心地のいい暮らしのために離れて暮らしていますが、今回は、夫が妻に対して心がけて使っているという「言葉」についてつづってくれました。
すべての画像を見る(全5枚)漠然とした言葉が苦手な妻に、夫が使っている言葉
ここ数年、私は発達障害について調べながら自分の苦手なことを把握しようと一生懸命でした。そして自分自身を分析、理解していく中で「漠然とした言葉をかけられると混乱してしまう」ことに気づいたのです。
「好き」や「愛している」という言葉は、私にとっては、漠然としすぎていて理解が難しく、大変苦痛なものでした。一見とても幸せでポジティブに思える言葉なので、「幸せを感じないといけない」「ぜいたくな悩みを抱えてはならない」という強迫観念に長年悩まされました。
私の頭の中では「好きだと言われた。どんなことをしないといけないのか?」「この人は私を愛しているらしい。どんな類の愛情なのか? 何が目的か?」という思考しか浮かびません。
何をどのくらいしたらいいのか、どこからが始まりでどこで終わるのか、私には分からないのです。
昔から漫画やドラマで、登場人物が「好きだ」「愛している」といった言葉をかけられるシーンはポジティブで嬉しい展開になることが多かったので、この言葉は幸せの象徴なのだと信じなくてはいけない、受け入れるのが自然の流れだと自分に言い聞かせていましたが、とても困難でした。
どのくらいストレスを感じているかというと、かけられ続けるとフリーズして道端でフラフラして倒れるほどです。このストレスになる理由は2つあり、1つ目はトラウマによるものでした。2つ目は私の生まれもっての性質です。
騙そうとしてくる人たちには「なんでそんな嘘をつくんだろう」と疑問に思いましたし、好きな相手には、相手を想えば想うほど、言葉を受け入れられない自分を責めることになりました。このことを誰かに話したら「ぜいたくな悩み」と言われそうで誰にも言えず、長い間、辛い日々を過ごしました。ポジティブであるべき言葉が、私にとってはネガティブになってしまうという目に見えない障害物を抱えて生活していました。
しかしそんな私ですが、なんと夫と話しているときに混乱したことが一度もありません。それはなぜなのか、考えてみたところ、夫の言葉遣いが自分に合っていたからでした。
●夫の言葉遣いは5w1h
夫の話し方は私の性質に合っていました。ちゃんと5W1Hで話してくれるのです。
5w1HとはWho(だれが)When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)を指し示す言葉。
夫は私に「愛している」の言葉を最初にかけるのではなく、つねに無言実行してくれました。そして私は行動してくれる夫を見続け「愛されているのだ」と言われなくとも認識できたのです。
このように業務的な喋り方をする夫ですが、時々は、漠然とした感情的な言葉をかけてくれます。
行動した後に、たまにかけてくれる言葉なので、私は混乱せずに素直に受け入れられます。
愛されていることが嫌なのではなく、最初に言葉だけをたくさんかけられてしまうことや、目的が分からない漠然とした状態が自分にとっては苦痛だったのだと気づけました。もちろんASDの人全員が同じではありませんし自分の経験からの影響もありますが、このように自己分析をして、気の合う人と一緒にいたり、互いに配慮をすることでストレスが減っていくのだと気づくことができました。
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【西出弥加さん・光さん】
妻の弥加さんは東京在住の絵本作家、グラフィックデザイナー。1歳のときから色鉛筆で絵を描き始める。20歳のとき、mixiに投稿したイラストがきっかけで絵本やイラストの仕事を始める。オフィシャルブログ「
私とリトルさやの徒然日記」、Twitterは
@frenchbeansaya