旬の素材を使った毎日の料理や、おいしい食べ方をつぶやく人気ツイッターアカウント、きょうの140字ごはん(

@140words_recipe

)。
アカウントを運営する寿木(すずき)けいさんに、大人になってから学んだ料理のこと、それをとおして気づく暮らしへの眼差しをつづってもらいます。

寿木けいさん「あこがれのシェフに会える動画時代の到来!」

いまやSNS上で、料理動画を目にしない日はありません。
今回は、平成から令和にかけて生まれた料理動画を改めて振り返ってみます。
動画を見て実際につくった写真とともに、料理が楽しくなるきっかけとなった5つのコンテンツを紹介します。

●1.7つの星を維持する毒舌シェフ

料理動画と聞いてまず私が思い浮かべるのはゴードン・ラムゼイ氏です。
2005年に汐留に開業したコンラッド東京のメインダイニング『ゴードン・ラムゼイ at コンラッド東京』(現在は閉店)は、世界的スターシェフ・ラムゼイ氏がアジアに初めて出すレストランとして当時大変な話題になりました。開業を記念してご本人が来日するということで、当時は週刊誌の記者として働いていた私も取材陣のひとりとして出かけて行ったのです。

肝心のシェフは、笑顔で私の質問に答えてくれて…という機会はなかったのですが、少し離れて拝見したお姿は凛としてすごくジェントルマン。
そんな名シェフとオンライン上で再会したのがこの動画。罵声を交えつつ喋りまくる姿に驚いたのでした。

スポーツをしているみたいですよね。この動画を見て以来、休日の朝食づくりが楽しみになり、2014年に自分のツイッターにこんなエントリをあげています。

●2.The Little Paris Kitchen:Cooking with Rachel Khoo

ラムゼイ氏が雲の上の人なら、等身大の“市井”の女性が料理動画で活躍し始めたのが2010年代の初頭です。
代表はイギリス出身の料理人、レイチェル・クー。料理動画界に舞い降りたヒロインです。

彼女が暮らすパリのキッチンは本当に小さくて一見不便そうにも感じられるのですが、魔法のように繰り出される魅力的なレシピに「私も週末は少し丁寧に料理をしてみようかな」とファンになった人は多いはずです。彼女のココットに触発されて、こんなものをつくっていたのが2016年。

●3.inliving:Cooking Potato salad at midnight

そして令和が始まる2019年。とっても気になる料理女子をyoutubeに見つけました。
初めて「inliving.」というチャンネル名で活動するririkaさんを見たのはポテサラづくりの回。玄関のすぐ横にキッチンがある、いかにもな都会のワンルームで真夜中に料理を始めるririkaさん。

おじいちゃんから送られてきたきたあかりを使ったレシピといい、背景のラックにかかった黒のデイパックと麦わら帽子、カメラのこちら側にだれかの存在を感じさせるような恥じらい目線…どこもかしこも物語を感じさせます。天然か戦略か、言葉とプロップの使い方が上手で、心をくすぐってきます。

ririkaさんが眠れない深夜にポテサラをつくるなら、都会で働く二児の母が料理に覚醒する黄金タイムは早朝。ririkaさん風に言えば、I like cooking early in the morning. I wonder why it’s so fun!

ポテトサラダの調理の様子
すべての画像を見る(全2枚)

触発されてつくってみました。ジャガイモは契約農家から取り寄せている無農薬栽培のものです。

ハムがなかったので、子どものおやつの魚肉ソーセージで代用しました。

ちなみに、パロディーの

outliving

さんも登場していることを確認しました。

●4.Cooking with Dog

同じ日本人でも、お次は謎の女性シェフと、ホスト犬・フランシスが織りなす不思議な料理動画。
youtubeにて「Cooking with Dog」というチャンネル名で活動していて、約300のレシピ動画を11年間にわたって紹介しています。出てくるメニューは、広島風お好み焼きからイチゴ大福、焼き肉までバリエーション豊か。

このエビフライ

なんて、タルタルソースまで丁寧で本当においしそう。

時短も節約もどこ吹く風。いまや日本の家庭料理ではほぼお目にかからなくなった、王道のノスタルジーがあります。

ホームページ

には8か国語でレシピ分量の単位換算機能もあり、世界中で愛されている動画であることがわかります。どこのだれだか知らないけれども、楽しそうに料理をするシェフはとてもチャーミングです。

●5.cookpad シェフズキッチン

名もなきシェフから一転、こちらは日本一の料理プラットフォーム内の有料コンテンツ。
使ってみようと思ったきっかけは、知人との会話でした。彼女はプロの料理家ではないものの、自作のレシピで複数の連載を持っています。
彼女曰く、自分でレシピを考えて料理をつくるときに怖いのが、間違えること。つまり、調理のタブーを犯すことです。

このサイトにはすでに発売になった料理本からのレシピや、日本の名だたるレストランの料理人のレシピしか掲載されていません。本や雑誌になって世に出たレシピということは、現場のスタッフの試作、料理家自身による調理、撮影、校閲…大勢のプロの手を経た品質が保証されているということ。
自作レシピのファクトチェックのための叩き台として「本当に助かる。だって、料理本はたくさん持ち歩けないでしょ?」という彼女の言葉に、さすがと唸ってしまいました。

●大好きな料理人に再会する

うれしかったのは、イタリアンの原田慎次シェフのレシピ動画があること。
社会人になったばかりの頃の私にとって、広尾にある『アロマフレスカ』(原田シェフが手がけるイタリアン)はちょっとおしゃれをして出かける特別なレストランでした。その後原田シェフが『カーザ ヴィニタリア』を南麻布に出店されたとき、偶然にも私もその店の裏に引っ越したのです。何度も通ったことが忘れられません。

【今月のひと皿】

明太子とヨーグルトの冷たいカペッリーニ

原田さんのレシピから、

「明太子とヨーグルトの冷たいカペッリーニ」

をつくってみました。
原田さんの料理のイメージそのままの、本当に涼やかな風が吹くようなひと皿で、ある意外な材料が使われています。動画のネタバレになるので詳細は書けませんが、原田さんのレシピでイタリアンのフルコースをいつかつくってみたいです。

これからどんなシェフや料理人のレシピが増えていくのか、楽しみです。

【寿木けい(すずきけい)】


富山県出身。ファッション誌の編集者を経て、食を主戦場とする会社に転職。著書『わたしのごちそう365-レシピとよぶほどのものでもない』(セブン&アイ出版)。2019年秋に2冊目の料理本を、2020年には書き下ろしエッセイを出版予定。 趣味は読書。好物はカキとギムレット。 ツイッター:https://twitter.com/140words_recipe ブログ:http://keisuzuki.goat.me/