深刻な需要の逼迫により木材が高騰。「ウッドショック」が起こっています。建築業界のプロだけでなく、多くの人にまで大きな影響が。たとえば、マイホームをこれから建てる方。いよいよ工事契約となっていたのに工務店から「影響で着工がいつになるかわからなくない」と言われることも。3月くらいから起こった「ウッドショック」の実態とは?いつになったら収まるのか?そして、いちばん気になる、今は家を建てるべきタイミングなのか?こうした疑問に、一級建築士で森林インストラクターでもある、古川泰司さんが答えます。

伐採された丸太
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ウッドショックの影響は、現場によってはっきり分かれるウッドショックは第二段階へ。家づくりは待ったほうがいいウッドショックが、SDGsへの取り組みと家づくりを見直すきっかけに

ウッドショックの影響は、現場によってはっきり分かれる

まずは住宅の設計者である筆者の周辺、工務店や材木屋さんから聞いた状況をお伝えしましょう。じつは、ウッドショックの影響をほとんど感じていない現場と、大変困っているという現場で、明確に意見が分かれました。

国産の木材を中心に使っているところには影響が小さかったのに対して、輸入木材を中心に使っているところでは大きな影響が出ていたのです。

上棟骨組み

まず知ってほしいのは「ウッドショック」はアメリカ発であり、輸入木材の話だということ。そして、やはりコロナ禍の状況が、それを引き起こしたということです。

アメリカでは新型コロナウィルスで60万人(2021年6月)の方が亡くなられています。これにより、アメリカの産業は、大きくストップ。結果として、木材を海外に輸出する余裕がなくなりました。アメリカからの輸入木材(ベイマツとベイツガ)が日本に入ってこなくなったのです。

さらに、空前の住宅ブームが追い打ちをかけます。アメリカでは、コロナ禍からの経済回復の目玉として住宅政策を大々的に行いました。木材の国内需要が加速度的に増えたのです。ますます海外に向けて木材を輸出する余裕はなくなりました。

アメリカから輸入されていたベイマツもベイツガも、日本の木造住宅を支える「骨組み」の材料として欠かせないものです。これが「仕上げ材」であれば、ほかの材料に変えて工事を始めることも可能なのでしょう。しかし、骨組みの場合には、そう簡単に変更することはできません。

木造住宅の要となる「骨組み」の材料が手に入らない。そして、それが回復するメドが立たないために、工事に着手できない。これが「ウッドショック」の実態です。

しかし、冒頭でも触れましたが、国産材を使っている方々には、今回のことはショックでもなんでもないのです。ではなぜ「ウッドショック」が社会全体に大きなインパクトになっているのでしょうか?それは、日本の木造住宅の多くが輸入材に依存しているからです。

日本の森林率

日本は森林大国です。国土の面積の66%が森林という、フィンランド、スウェーデンに次ぐ世界第3位の森林率を誇る国です。しかし、驚くべきことに木材の自給率は、現在38%と低迷しています。森林大国なのに木材の自給率が低いというのは変な話です。

日本の木材自給率

なぜ、日本で木材の自給率が低迷しているでしょうか。森林の地形が欧米に比べて急峻で複雑であることが、その理由のひとつ。海外に比べて丸太の生産がどうしても安定せずコストがかかるから。木材の流通を担う商社としてみれば、同じ木材であれば、安定して安価に手に入る海外の木材を選ぶのは自然の選択です。

高性能林業機械

ただ、この日本の木材が安定的に供給できないという問題はこれから変わっていくと思います。高性能林業機械などの採用が著しく進んでいて、生産性はどんどん上がっているからです。

まさに今、日本の林業は国際社会の中で生き残っていくすべを身につけ始めているといえます。ただし、すぐに安定供給ができるかというと、それにはまだ時間がかかるのも事実なのです。

ウッドショックは第二段階へ。家づくりは待ったほうがいい

そして今、「ウッドショック」は第二段階に入ってきています。ベイマツやベイツガの代わりに国産材を使うという動きが出てきたために、国産材の奪い合いが始まったからです。一方では投機目的の丸太の買い占めも始まっていると聞きます。その結果、価格も2割から5割くらいはね上がる事態に。

一軒の住宅に使う木材の総額は200万円前後です。2割で40万円、5割で100万円。住宅の建設費はここに来て全体的に上がっているのです。「ウッドショック」は、国産材の世界にも大きく影響し始めたのです。

この第二段階のウッドショック(国産木材価格の高騰)はしばらくすると収まると思いますので、それまでは家づくりを待ったほうがよいでしょう。

では、もともとの「ウッドショック」はいつ終わるのでしょうか?そう簡単には終わらないと私は考えています。国産材の安定供給には時間がかかりますし、アメリカの経済活動もそう簡単には元には戻らないだろうからです。

また、「ウッドショック」が終わったとしても、木材の価格は高止まりのまま落ち着いてしまうと思います。今まで通りの価格では、もう家は建たなくなると考えていたほうがよいでしょう。

アメリカの住宅ブームが落ち着くと少しは回復するという言う人もいます。しかし、それはコロナ禍が始まる前に戻るだけの話。アメリカの復活には時間がかかりそうです。国としての生産力が上がらないで需要が変わらないとすれば、アメリカの木材産業の余力は、減少したまま、しばらくもとに戻らないでしょう。

ウッドショックが、SDGsへの取り組みと家づくりを見直すきっかけに

日本の資源となる森の木々

実際に今回の「ウッドショック」の影響で夢見たマイホームが遠のいてしまった方々も少なくありません。その事実を真摯に受け止めながら、私はこの「ウッドショック」が、これからの日本の家づくりを考え直すチャンスなのだと考えます。

今まで私たちは家を手に入れるときに、多くの方はそれが木造の場合に「どこの木」を使っているのかに関心がなかったと思います。その結果、日本の住宅産業が輸入材に依存するようになっていったわけです。

しかし、これはだれが悪いわけでもありません。今までの経済の自然な流れなのです。そうした過去を否定するのではなく、これからの日本の家づくりはどうあるべきかを、みなさんと一緒に考えていくことが大切です。

今までは、国産材は生産コストがかかるため割高だったのですが、「ウッドショック」で輸入材のほうが高いという逆転現象が起こってきています。先の説明のように、日本の林業も合理化がどんどん進んで、生産コストが下がることも見えてきました。そうしたら、どこの木を使うかに関心をもつ余裕が、私たち消費者にも出てきます。

そのときに、地域の木材、地域の森を守っている生産者がいることに注目してほしいのです。地域の木を使うことは、私たちの次の世代のための森を育てることにつながります。日本の森を守リ、育てている人の木を使うことこそが、このような「ウッドショック」を二度と起こさないことになるのです。

使うほど木材の需要は安定するものです。安定した需要の先に、安定した生産が生まれます。SDGsが注目されているように、持続可能な社会が求められている今、森林資源は再生産可能なかけがえのない資源なのです。

「ウッドショック」をきっかけに、みなさんには、日本の森のことに関心を持ってほしい。そして一緒に、日本の林業を応援していくことができればと考えています。

●教えてくれた人/古川泰司さん
1963年新潟県生まれ。武蔵野美術大学、筑波大学修士課程修了。アトリエフルカワ一級建築士事務所主宰。設計で大切にしていることは「森とつくる いっしょにつくる」。森と木を生かした「森とつながる建築」をつくり住宅医の資格を持ち、中古住宅の診断、耐震改修、断熱改修、生活改善を提案。DIYのサポートも。近著に『木の家に住もう。』(エクスナレッジ刊)がある