夫婦とひとり娘、そして家を建ててからやってきたトイプードルのルル(メス/2歳)が暮らすのは、素材にこだわり、そして間取りには細やかな気配りが随所に施されているナチュラルな家。いろんなところに家族の居場所があり、年を経るごとに味わいが増す、魅力あふれる住まいです。
自然素材を使い、一緒に年を取れる家に
Sさんが家を建てたのは、夫の実家の敷地内。母が暮らす母屋とはつかず離れずの距離にあります。その近隣の集合住宅に暮らしていたSさん家族ですが、父親が亡くなり母親がひとりになってしまったこと、そして娘の小学校入学をきっかけに家づくりを考え始めたといいます。
設計は名古屋の家具店で紹介された建築家の松原知己さんに依頼。「一緒に年を取れる家を」との希望を伝え、そのほかは松原さんに一任しました。
「プランは模型で説明を受けたんですが、当初から心をわしづかみにされました」(夫)。1階にはLDKと洗面・浴室、2階に寝室と子ども室というシンプルな間取りながら、身体感覚に寄り添うちょうどいいスケール感。木と塗装の仕上げなど、自然素材を使用した空間は理想通りでした。
明るい色味の床はナラ材を採用。キッチンの面材と相まって、木の温もりが感じられるやさしい空間です。
柱・梁などもできるだけ自然のものを選び、家族とともに一緒に年を重ねていけるよう考えられています。また、敷地内にはSさんの母が暮らす母屋が建っているため、母屋との距離感を大切にしました。
気軽に行き来ができるように、リビングの大開口を母屋側にするなどの配慮をしています。
キッチン内部はこちら。
家具工事によるオリジナルのキッチンの面材はオークが用いられ、LDK空間と調和しています。収納量も十分ですね。
リビングは長女とルルのプレイグラウンドです。
ソファに乗れば長女と目線が近くなるので、ルルのお気に入りの場所です。ダイニングは家族団らんの場所。
「ルルは寝るのも一緒。3人と1匹で布団を分け合っています。夫がたまに自分の食事からおすそ分けしちゃうので、食卓では夫の膝に乗ってることが多いかな」(妻)。
心地よい家で、ルルもごきげん。
愛犬と暮らすための便利な場所がいろいろある
ルルがS家に家族として迎えられたのは、家が建って1年後のこと。
設計段階でルルを想定した間取りの工夫はとくにありませんでしたが、ルルもうれしい便利な場所があちこちにみられます。
玄関扉の外はアルコーブ型で、屋根のかかった半屋外のような空間になっています。
実はここが大変便利。小さなベンチがあって、散歩の行き帰りにグルーミングしたり、雨の日にはルルの体を拭いたりと大活躍。
正面の壁まで奥行きを長く取っているので、玄関扉を開けたときにルルが表に飛び出しにくくなっています。
広々とした玄関土間は洗い出しの床が印象的。暑さが苦手な犬にとって、土間のひんやり感は気持ちいいもの。
「さあ、散歩に行ってきま〜す」。
ところで、真っ黒な外観に目がいきませんか? 素材はなんだろう…?外壁はスギ板張りの墨色塗りなんです。
散歩から帰ってきたら、足を洗わなくちゃ。
玄関脇には水場が設けてあります。もともと草木の水やりのために設けたのですが、散歩帰りのルルの足を洗うのに重宝しています。ちなみに、庭も広いので走り回ることもできますね。
暮らしに彩りを添えるちょっとしたコーナー
「読書コーナーと、リビングのデッキは僕の昼寝場所です」と夫。ちょっとしたコーナーを設けているのがS邸の特徴でもあります。リビングにつながるデッキにはハンモックを吊るして。ゆったり時間を過ごすひと時は、ゆらゆら揺れてリラックス。
リビングの東側にある小上がりの和室は読書コーナーに。
座って本が読める造り付けの机が北側に備わっています。傾斜した天井と壁によって、心地よい囲まれ感を演出。畳敷きだから、お昼寝にも最適ですね。2階、階段を上がった空間はオープンなファミリールーム。南側の窓際には机、北側には本棚が備わるスタディースペースです。
今はダイニングテーブルが勉強机だけれど、長女にとってここはお気に入りの場所のひとつのよう。
インナーバルコニーは、晴れていればもちろん雨が降っていても心地よい空間。「休日にここで飲むビールは最高ですよ」と夫。ひらけた風景が見えるのは……。
インナーバルコニーの南側です。道路を挟んでSさんが所有する畑の景色が広がっています。2階の子ども室にもこんな空間が!
ロフトベッドがしつらえられているんです。ここもちょっとした隠れ家のよう。下部は収納として活用。
キッチンと隣接した洗面・浴室。
北側に位置しているがハイサイドサッシから光を取り込み、明るい印象の空間です。キッチンから回遊できるので家事がはかどりそうですね。思いを形にした「家」が家族みんなをしあわせにし、ルルが仲良し家族のつながりをさらに強めてくれました。暮らしを楽しむSさんのお宅には、いつも笑顔があふれています。
設計/松原知己(松原建築計画)
撮影/日紫喜政彦
※情報は「住まいの設計2018年3-4月号」取材時のものです