すっきり片づけて、快適に暮らしたい。そう願う人は多く、実際、片づけにまつわる本や雑誌記事は常に人気で、変わらぬ関心の高さを示しています。流行を繰り返す数々の片づけ術を実践し、成功させたという人も多数いることでしょう。その一方、片づけたいけど時間がない、挑戦したけれどうまくいかなかった、捨てまくって一度きれいにしたのにリバウンド…などなど、うまくいかずにストレスをためている人がたくさんいるのもまた事実です。
「完璧に片づけができないからといって、自分はダメな人間だと思い込む必要はありません。収納は開き直るくらいでいいんです」というのが、精神科医の奥田弘美先生。精神科医の視点から、従来の片づけ論に比べて負担にならないストレスフリーな方法、その名もずばり「開き直り収納」を提唱する奥田先生に、その極意を伺いました。
「きれいに片づいた部屋をキープしなくちゃ」という思い込みがストレスに!
じつは自分自身が「片づけ失敗組」だったという奥田先生。
「3年前の引っ越しを機に一気に片づけて、『まるでモデルルームみたい』と、自画自賛するほどすっきりしたのに、半年ほどで、ものだらけで生活感たっぷりの部屋に戻ってしまいました。夫や息子たちにしつこく片づけろ、捨てろと言い争うまでに。自分も、仕事関連の資料や本、学会誌といった類はためてしまう方なのでイライラ。そんな毎日を送るうち、ふと、自分にとっての理想の部屋ってなんだっけ? と思い始めたのです」
これまで本や雑誌で目にしてきた、すっきり片づいた美しい部屋。自分がそこを目指すのは間違っているのかも、と気づいたのだとか。
「心地よい、と感じる基準は人それぞれ。それなのにいつの間にか、だれが見てもきれいな部屋であることがいちばんだ、と思い込み、それをキープし続けることにこだわるようになってしまったのです。でも、片づけの真の目的は、よくよく考えてみると、たったの3つ。『健康のため清潔・安全を維持すること』『ものを紛失しないこと』『欲しいものがすぐに取り出せること』。これさえクリアできていれば、ものが出ていようが、生活感あふれようがかまわないじゃないか、と開き直ることで一気にラクになれたわけです」
片づけや収納が好きで得意な人は、もちろん存分に取り組んでもらってよいのですが、そうでない人が身の丈以上の片づけに必死に取り組んでいては、気の休まるときがありません。この「過緊張」状態が家庭に及ぼす影響を、奥田先生は心配しています。
「ストレス社会の現代、家はリラックスできる数少ない場。見た目やテクニックにとらわれず、家族みんなが本当にくつろげる空間づくりのために、開き直り収納のマインドを役に立てていただけたらうれしいです」
「開き直り収納」に大切な3つのポイント
片づけに失敗し続けている人は、奥田先生が提唱する「片づけの目的」に立ち返ってみましょう。この3つさえ守れれば、ハードルが下がり、片づけがスムーズにいくようになります。
(1)健康のため清潔・安全を維持すること
家の中のホコリやゴミを放っておくと、虫がわいたり、ハウスダストが原因のアレルギー疾患になったりする可能性があります。ものが散乱していては、つまずいてケガをすることも。こうした被害を防ぐのには掃除が必須で、片づけはそのための第一歩です。
(2)ものを紛失しないこと
ものがあふれた状態では、どこになにがあるかわからなくなり、探し回るのが大変。使いかけのものがあるのに新たに買ってしまったりする「ダブり買い」でムダにお金を使ってしまうことにもなります。そんな事態を避けるため、片づけが欠かせません。逆に、勢いで捨ててしてしまった人のなかには、捨てたのかしまい込んだのかわからなくなった、という人もいるので要注意です。
(3)欲しいものがすぐに取り出せること
その人にとってわかりやすく、取り出しやすい状態にものが片づいていれば十分。すっきりとした部屋を実現したいあまり、なにもかも棚や引き出しにしまい込んでありかがわからなくなったり、取り出しにくくなったりしては意味がありません。片づけは家事の手間を最小限にすることでもあるのです。