東京都練馬区にある吉田邸の窓の外に広がるのは、美しい桜並木です。妻の実家への近さに加えてこの桜並木も気に入り、予算内で購入したそう。マンション平成9年築、専有面積は56平米で、工事費 700万円(設計料・施主支給品は含まず)でリノベーションしました。
すべての画像を見る(全13枚)完成した空間は岡山県・西粟倉村の檜や杉(ニシアワー)、卵の殻を原料とした左官材(ビーナスコート)などの自然素材をふんだんに取り入れ、窓の外に広がる自然とも見事に調和しています。その設計にあたったのは、設計事務所に勤務する夫。プランニングの際、ヒントにしたのが、国内外の旅で利用したホテルだったそうです。
どこにいても気配が感じられる家族をつなぐ回遊空間
「いいなと感じたホテルの部屋には、デザイン性や収納力に優れた造作家具があって、回遊性のある動線にも魅力を感じていました」と夫。
自邸では、まず、家の中央にあったトイレを移動して水回りを一か所にまとめました。そして、元のトイレの位置にあって動かせなかった配管スペースの周りに、大容量の収納を配置。この収納を中心としてぐるりと回遊できる動線、ドーナツ状の空間を生み出したのです。
グレーの塗装を施した部分が、家の中心に設けられた収納です。寝室側からはウォークインクローゼット、キッチン側からは日用品のストックなどを入れる収納になっています。
ドーナツ状の空間には、LDKやワークスペース、寝室などのゾーン分けはありますが、実際は全体が大きな一つの空間のようになっています。生活時間帯がずれる日が多い夫妻ですが、「夫が別のところにいても、何をしているのか分かるのがいいですね」(妻)。
また空間の一体感は、数字以上の面積を感じさせる一因にもなっています。
圧巻の造り付けオープン棚は全長約9m!
収納力だけでなく、空間のつながりや奥行きを感じさせるポイントにもなっているのが、リビングから寝室まで続く造り付けのオープン棚です。
その全長は、なんと約9m!
棚のリビング側は、テレビ台や飾り棚として使用しています。壁面と棚板の間にはあえて隙間を設け、コード類が通せるようにしてあります。
棚の中央部分は、棚板を手前に張り出させて机とし、ワークスペースに。そして、寝室側の棚にはプラスチックケースを収め、生活感の出やすいものを収納しています。
一連の棚でありながら、場所によって機能を分けた多様性が特徴です。
素材やディテールへのこだわりは建築士ならでは
LDK入り口の引き戸は、縦格子です。空間の表情を豊かにするだけでなく、LDKからの光を廊下に届ける役割もしています。
ダイニングのベンチは造り付けで、座面の下にはゲスト用の布団が入っています。座面が畳なので、座り心地がよいだけでなく、布団を敷けばゲスト用ベッドとしても使用できるスグレモノです。玄関収納はアウトドア用品も入っているほど、大容量。
室内の棚などと同じシナランバーで造作し、ツマミにはウォールナット製のものをセレクト。室内の雰囲気にもマッチしています。
キッチンやLDKの壁には、マヨネーズをつくるときに廃棄される卵の殻を原料にした壁材「ビーナスコート」を使用しています。ツヤ消しのやさしい雰囲気に加え、吸湿効果なども期待できるそうです。
キッチンの背面には吊り戸棚を造作したほか、無印良品の棚も組み合わせています。
モザイクタイルの壁が印象的な洗面・脱衣室は収納をたっぷり取りつつ、ゆったりと作業や身支度ができる広さも確保しています。洗面台の左下の扉奥には、ゴミ箱がビルトインされています。
浴室・洗面室の引き戸は、割箸を製造するときに出る端材を使って造作したものです。浴室・洗面室を使用中かどうかは、引き戸上部のスリットから漏れている明かりでわかるようになっています。
トイレ正面の壁には、岡山県・西粟倉村の杉の間伐材を使用した個性的なパネルを採用しました。
リノベーションは、設計をした夫の独壇場だったのかと思いきや、「木材を見に行ったり、つくる過程も楽しめました」と妻。
2017年にに誕生した第一子と同様、どのようにこの空間が育っていくのかも、楽しみにしている様子でした。
設計 吉田智重(坂倉建築研究所)
撮影 遠藤宏
※情報は「リライフプラスvol.24」取材時のものです