作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセイ。今回、高橋さんがつづってくれたのは、実家・愛媛で大切に育てているブドウのお話です。

第3回「猿と妹とブドウ」

暮らしっく
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●昨年、猿によって全滅になってしまったブドウ畑

夏と秋のはざまを、うろうろしているこの頃だ。朝晩は冷えるのに、日中は太陽が容赦ない。蝉の勢いも弱まっていつの間にか鈴虫が鳴き始めて、心がざわざわしてくる。秋か? いやまだ夏か? 四季ならぬ、日本には5つも6つも名前のつかない季節があり、種まきの時期や収穫時期で、5つ目の季節を子供のころから自然と感じて育った。

愛媛の実家で育てているブドウが、元気な実をつけた。
3年前に植えたが、去年は猿に食べられて全滅していた彼らだ。私と夫で耕作放棄地を借りて育てていたのだが、この夏は2人とも忙しかったので妹が畑の管理をしてくれていた。

畑のネットの様子

お盆に帰省し、畑に行って驚いた。ネットが三重に!!!! こうでもしないとネットを食い破って猿が入ってくるらしいのだが…。下もしっかりと杭で打っていて、外して草刈りをしようものなら人間がひっかかるありさまだ。なんでここまで、と思うでしょうけれど、イノシシや鹿と違って猿から逃れるのがじつはいちばん難しい。なんたって賢い。4歳児くらいの知能、記憶力、想像力、そして学習能力たるや。

カカシなんて3日でボッコボコにされるし、去年は撃退できていた害獣ネットも、今年はスイスイ乗り越えてむしゃむしゃ食べられているんだもの。しかも30匹の集団でやってくるんだよ。

昨年の夏、いよいよ明日収穫だねと言って、笑顔で畑から帰ってきた翌日…悪夢だった。

う、う、う、嘘だろ! 夢だよな。猿が杭を抜いてネットの中に入り、たわわに実ったブドウを全部食べていたのだ! 50本近く全部! 数年前により確実に賢くなっている。私たちはブドウくらい青ざめた。1年の苦労が半日で水の泡。動物も生きていかなきゃならないからねー、なんて悠長なこと言ってられません。しばらく落ち込んだ。これは離農者が増えるはずだ。

害獣ネットを買いに行っても、その多くには 

※ 猿には効かない場合があります

※ イノシシ、鹿、鳥用ネットです

と書かれている。残された道は、猿と人間の知恵比べということだ。

●畑移転の提案をするも、猿と闘うことを選んだ妹

私たちは考えた。山に囲まれたここじゃあ、もう農業は無理だから、ブドウを県外に移転させるか、それとも頑丈な金網のハウスを建てるか。天井まできちんと張らなければ10センチ四方の穴でもそこから子猿が入る(近所のまゆみちゃんちは、全体を金網で囲ったにも関わらず、イチジクを全部食べられてしまった)。全体を柵で囲んでハウスみたいにするには…えええー! ホームセンターに問い合わせると100万円近くかかるという。夫は、もう山梨あたりに移設しようと言っていた。

しかし負けん気の強い妹は
「やってみる、今年だけやってみてダメだったら移設しよう」
そう言って、猿と闘う道を選んだのだった。