「ひとりで過ごしている人は寂しそう?」50代でスペインに単身留学中のRitaさんがスペインの人々の暮らしに触れるなかで感じた、「ひとり時間」の大切さについて語ります。「孤独」との決定的な違いや、Ritaさん流の「ひとり時間を楽しむ方法」についてレポートします。
すべての画像を見る(全7枚)「自分のためだけの時間」をもつ勇気
夏の夕暮れ、スペインのカフェのテラス席で、コーヒーと小さなクッキーをひと口ずつ味わっている女性を見かけました。銀色の短い髪が夕暮れの光を受けて輝き、背筋はすっと伸び、だれかを待っているわけでもなく、携帯をのぞくでもなく、ただその時間を自分のために使っている様子が、とても印象的でした。
同じ光景を目にしても、状況によっては「寂しそう」に感じるかもしれません。でも、スペインでは「ひとりで過ごす時間」はごく自然で、むしろ魅力的に映ることが多く感じます。だれかと一緒にいるときと同じように、ひとりのときも堂々としている…。
それは「孤立」とはまったく違う、深く満ちた「ひとり時間」に思えるのです。
ふと気づけば、私たちはなにかと予定をつめ込み、人と比べ、評価を気にしてしまうもの。でも、人生を時々立ち止まり、「自分のためだけの時間」をもつ勇気があれば、きっと景色も心の色も変わってくる。その女性の姿は、そんな生き方を、教えてくれているようでした。
「孤独」との決定的な違い
私はここに来るまで、「孤独」と「ひとりで過ごす」ことを同じもののように感じていました。でも、スペインの人たちを見ていると、この2つには決定的な違いがあることに気づきます。
「孤独」は、欠けている感覚。だれかとのつながりがないことによる、どこか寂しさや不安が中心にあるのではと思います。それに対して、「ひとりで過ごす」は、満ちている感覚。自分との時間を心地よく過ごす力があって、そこに寂しさはありません。
そして、その違いを決めるのは、周りからどう見られているかではなく、自分がその時間をどう感じているか。スペインでは「ひとりでいる=人に恵まれていない」という発想自体があまりないように思います。
ひとりでいる姿は、その人の成熟や自立の証のように見られることさえあり、自分時間を堂々と楽しむ、大人の風格すら感じます。「だれといるか」より「自分とどう過ごすか」のほうが、人生の彩りを決めるていることを強く思わされる環境です。
スペインで見かけた「ひとりを誇れる」人たち
朝の市場でひとり、野菜を吟味する年配女性。バゲットを買った帰り道に、海辺のベンチで文庫本を読み、波の音に耳を澄ませるハンチング帽の男性。バルのカウンターで店員と数言だけ交わし、エスプレッソを楽しむ常連客。
だれも「寂しそう」には見えません。むしろ、自分のペースを大切にしながら、まわりの空気と自然につながっている。スペインではひとりでいる人も、周囲の温度のなかにやわらかく溶け込み、その存在が風景の一部になっています。
自分の時間を自分らしく満たす姿は、人生の後半をどう生きたいかを静かに教えてくれるお手本のように思えます。そして、そんな環境で暮らすうちに、私自身も「ひとりを楽しむ」ための小さな習慣が増えました。