自分の子どもには国際感覚豊かに育って欲しいですが、世界情勢を理解するのは案外難しいもの。「今、世界でなにが起こっているのか」を、ちゃんとは説明できないという人は、大人でも多いのではないでしょうか? しかし、子どもに質問された際もしっかり答えられるように、国際情勢の基礎知識を学んでおきたいものです。そこで今回、イギリスのEU離脱を意味する「BREXIT(ブレグジット)」をはじめ、各地でめまぐるしく変化が起こるヨーロッパの状況を理解するため、現役外交官の島根玲子さんに、今こそ知っておきたい世界情勢について教えてもらいました。

EUフラッグ
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「BREXIT(ブレグジット)」とはそもそもなんだったの?

イギリスのEU離脱、通称「BREXIT(ブレグジット)」とはどんなものだったのでしょうか。

イギリスは1972年からEUのメンバーでしたが、EUから抜けるか、それとも残るかで国内の意見が分かれ、2016年に国民投票を行いました。

結果は、離脱が52%、残留が48%というほんのわずかの差で、イギリスはEUから離脱することを決定しました。その後、2020年に正式にEUから離脱しましたが、イギリスはこの離脱をめぐって、4年間も大混乱に陥りました。

そもそもなぜイギリスはEUから離脱しようとしたのでしょうか。これは国家の主権に大いに関係があるのです。

EUという大きな共同体に入るということは、メリットも大きいのですが、その一方で、自分たちが本来もっている国家主権を一部EUに差しだすようなものです。小さい国は、EUに入ることよって発言力が増すので、メリットは大きいかもしれません。

でも、イギリスのような大きな国では、「なんでEUにいろいろ決められなきゃいけないのだ」とか、「自分たちは大国なんだから、人に指図されたくない、自分のことは自分で決めたい!」と思う人が増えてくるのです。

とくにイギリスのように昔から大国で、世界は自分たちを中心に回っているのだ、と思っているような国では、そのように考える人が多かったのです。

世代で分かれた「EU離脱派」と「残留派」

EU支持の女性
※画像はイメージです。(画像素材:PIXTA)

ブレグジットの際、よく叫ばれていたスローガンが、「主権を取り戻せ」です。このように、EUに奪われた主権を取り戻したいという気持ちがブレグジットをあと押ししました。

ブレグジットを振り返る際に注目したいのは、離脱と残留にそれぞれ投票した人の年齢層です。

高齢者は離脱を支持し、若者は残留を訴えました。

イギリスがEUに入ったのは50年以上前の話なので、若者にとってはイギリスがEUの一員であることは普通だし、それが当たり前でした。それに対して高齢者は、EUの一員ではなかったイギリスを知っています。

「昔はよかった」なんて声は世界のどこでもよく聞きますが、ブレグジットも例外ではありません。EUに入ったことによって自分たちの主権を奪われたのだ、そんなのやめて昔の大国のイギリスに戻ろう、という高齢者の声がブレグジットをあと押ししたのです。

「第2のイギリス」はなぜ現れないのか

ブレグジットから5年が経ち、イギリス国民はどう思っているのでしょうか。

残念ながらイギリス国民の60%以上がブレグジットは失敗だったと考えていて、正しかったと思っているのは、34%しかいません。

その理由のひとつが、ブレグジットによってイギリスの物価が上がってしまったことです。

EUを抜けたことで輸入のコストが上がり、ものの値段が上がりました。また、移民が少なくなったことで不足した労働力を、国内の人で賄(まかな)わなくてはならなくなり、人件費も上がりました。

こうしたコストの上昇は、結局イギリス国民のお財布に響いてきます。そのような背景から、右派の台頭するヨーロッパのなかでは珍しく、イギリスでは左派政権が誕生しています。

さらに今のところ、「イギリスに続いてEUを離脱するぞ」と本格的に動く国は出てきていません。それは離脱にまつわるイギリスのドタバタ劇や、離脱によって国民の生活が苦しくなったのを目の当たりにしたからでしょう。

このようなイギリスの動きは、EU存続にとってはひと筋の希望の光といえるのではないでしょうか。

人類最大の実験、EU。ざっくり見れば似たもの同士だけど、よく見てみれば文化も経済力も違う27もの国の集まりです。それらの国が、ひとまとまりになってうまくやっていけるのか、やっぱり無理なのか、これからのEUの進む道を、世界は注目して見ています。