随筆集『蝶の粉』『けだま』で注目を集め、文筆家としても活動するモデルの浜島直子さんが、この度フォトエッセイ『キドアイラク譚』(扶桑社刊)を刊行。“はまじ”が実践する「自分の感情との向き合い方」や、作品の創作過程における秘話について、たっぷりとお話を伺いました。

浜島さん
はまじこと浜島直子さん
すべての画像を見る(全4枚)

当初は「衣食住」を題材にする予定だった

今回、浜島さんが書いたのは「喜怒哀楽」という人間の4つの感情にまつわるエッセイ。これまでの2作と大きく異なるのは、写真つきで、なおかつ軽やかに読めるライトな筆致であること。

「じつは書き始めたときは『衣食住』をテーマに、家の中にあるものを1日1アイテム写真に撮り、コラムをつける予定でした。ところが、いざ取りかかってみると、まるで脳が冬眠しているように、撮るものも書くものも思い浮かばない(笑)。編集担当の方と相談し、ものではなく感情を切り口にしてみたらどうだろう? とお題を変えてみたら、急にワーッと書きたいことが湧いてきて、自分でもビックリしました。

超インドア派でなまけもの、家でぼんやり考えている時間が長い私には、感情にひもづけて自分の内を掘り起こす作業が向いていたのかも。“長めのインスタグラム”のような感覚で、気負わず読んでいただける一冊になっていると思います」

起こった出来事を情景としてだけでなく、そのときに感じた感情とともに思い出す作業は、浜島さんにとって、「自分の過去の気持ちを整理する」いい機会になったといいます。

浜島さん

「これまで自分の中で『単なる出来事』というざっくりとした記憶だったものが、喜怒哀楽のうちどのジャンルにしよう? と考えながら書くと、『あのとき、私ってすごい怒ってたんだ』とか『イライラしてたけど、じつはあれは愛情だったんだ』と、表面的な感情の一歩深いところにある本心を知ることできた気がします。

たとえば、『ド(怒)』の章の『第二感情』(P.56)では、近所のスーパーで走り回った息子が見知らぬ男性に怒鳴られ、親子で何度も謝罪したものの許してもらえず…というコロナ禍でのちょっとした事件について書いたのですが、当初は『アイ(哀)』に入れて子どもを守る母性愛のような方向性でまとめ、自分の心をなだめたつもりになっていたんです。

でも、その内容を読んだ旦那のカズちゃんから、『なんかきれいな話にしようとしてるけど、今でも怒りは収まってないんでしょう? だったらそのまま書けばいいじゃん!』と言われて。気持ちに正直に『ド(怒)』として書き直したら、『私、まだ怒っているんだな』と気づいたと同時に、なんだかスッキリしました(笑)」

「更年期の感情の揺れ」はだれかと共有することで解消できる

浜島さん

今年49歳。自身も更年期まっただ中にある浜島さんは、「イライラやモヤモヤにとらわれそうになったら、まずはだれかにそれを伝えることで『おもしろエピソード』に昇華して」と提案します。

「私は、イライラを引きずってしまいそうなことが起こったら、まずは夫のカズちゃんかマネージャーのみやもちゃんにすぐに報告するんです。ふたりに『こんなことがあってね…』と話しているうちに、段々と『私が許せないポイントはここだったのか』とか、『自分も同じだったからカチンときたのか!』と気持ちが整理されてくる。するといつの間にか、心の中がすっと穏やかに。

直接だれかに話すのが苦手なら、私が本にしたように、文章にしてみてもいい。絵が得意だったら、4コマ漫画にしてSNSにアップするのもいいかも! だれかに『いいね!』と共感してもらえたら、とてもうれしいと思うし、ちょっぴり前向きになれると思います」

さらに、「イライラしている自分をそのまま受け入れてみる」のも、感情をコントロールする上では効果があるという浜島さん。

「画家であり、友人でもある平澤まりこさんがVoicyでおすすめしていた『なまけ者のさとり方』(PHP文庫刊)という本に書いてあったのですが、腹が立つことが起こったら、まずは自分が怒っていることをすんなり受け入れる。ポジティブにもネガティブにもならず中庸でいると生きやすくなるんだと。最近、私もこの方法を試していますが、そうすると物事を俯瞰(ふかん)に見られるようになり、前のようにカリカリしなくなった気がします。

毎朝亡くなった義両親とピピちゃんの写真に手を合わせるときに、心が凪のように穏やかになる感覚となんだか似ています」