料理は嫌いじゃないけれど、「毎日の献立を考えるのが大変」という声は巷にあふれています。そんな人たちに寄り添ってくれるのが、最近発売された料理人・笠原将弘さんの著書『笠原将弘の献立の極み70』(扶桑社刊)です。昨年発売され、現在までに重版8刷りと好評を博している『笠原将弘の副菜の極み158』(扶桑社刊)に続く第二弾で、笠原さんが「最高の組み合わせ」だと考える70の献立を紹介しています。献立の達人である笠原さんに、「献立」との向き合い方を伺いました。
すべての画像を見る(全3枚)子どもたちの料理に向き合う姿に思うこと
――20代の2人の娘さんたちは、家で普段から料理をするんですか?
笠原:2人とも意外としますよ。まぁ、自分が食べたいものをつくる感じなんで、パスタが多いですけどね。あとは、2人ともお金がないから、仕事にお弁当を持っていくんですよ。だから、お弁当用の常備菜なんかを夜中に動画を見ながらつくってますよ。
――娘さんたち、マメですね。そんなとき、笠原さんも一緒につくったりするんですか?
笠原:たまたま仕事から帰ってそんな場面に出くわすと、「なにやってんの?」と一緒に動画を見たりしますね。いつも「味見してみてよ」と言われるんだけど、これがだいたい味がイマイチで(笑)。ちゃんと動画どおりにつくってはいるものの、肝心の「加減」がまだわからないみたい。
僕も「なんか違う」と思うと、手を出さずにはいられなくなっちゃって「もっと強火で煮つめてみろ」「もう少し塩を効かせた方がいい」とか、ついつい夜中に興奮しちゃうんですよね。「おい、冷蔵庫にあるあれも入れちゃおう!」とか言って、最終的には僕の味に変えちゃったり。どうせつくるなら、おいしいほうがいいですからね。
――さすが、料理人の父親、ほほえましいエピソードですね。やっぱり娘さんたちには甘いんですね。
笠原:いつもはベタベタしませんが、料理に関してはゆずれないというか、おいしいものを食べてほしいという気持ちが強いんですよね。撮影がある日はいつも、「明日弁当いるか?」と家族LINEで聞くんですが、必ず2人から「いるいる!」って返事がきます。そういう日は自分の晩酌の用意がてら、撮影でつくったものを彼女たちのお弁当箱につめてあげたりしています。
笠原家の普段の食卓。家庭の献立にルールは要らない
――ところで、笠原家の食卓はいつもどんな感じなのでしょうか?
笠原:普段は全員がそろってごはんを食べることは少ないですけど、コロナ禍のときは、みんなでよく食べていましたね。わが家は、基本ハチャメチャなんですよ。みんなに「今日、なにが食べたい?」と聞くと、たいてい答えがバラバラで。カプレーゼもあれば、肉ジャガも麻婆豆腐もというように、ジャンルもなにも関係なくみんなの好きな料理を並べることが多いですね。
――それはそれで、楽しそうですね。家庭の食卓ならではというか。
笠原:そう、極論を言えば、家庭の献立にルールは無用なんですよ。こうしなきゃとか、何品つくらなきゃとか、そんなことに縛られる必要はないんです。
僕は子どものころ、両親が店で働いている間は祖母の家によく預けられていたんですが、そのときの食卓がもう見事に「なんでもあり」の世界で。わかりやすく「今日のメニューはこれ」という感じではなく、昨日揚げた天ぷらがあったり、お隣からもらった佃煮の壺が出ていたり、おじいちゃん用に刺身が用意されていたり。食卓いっぱいにちょこちょこ並んだ料理を片っ端から食べるという感じでした。でも、子どもながらにそんな食事の時間が楽しくて、あれこそ僕の食卓の原風景ですね。
――「おいしい」と「楽しい」は料理の基本ですよね。
笠原:僕も仕事ではいろいろなことを言っていますが、本音では祖母の家のような食卓でよし! とも思っています。でも、当時から自然と自分でバランスのいい組み合わせを無意識のうちに選び取っていたような気がしますね。から揚げや天ぷらを食べたら口の中が脂っこくなるから、次はサラダや漬物を食べようという具合に。
――まさに、献立を立てるときのベースになる考え方ですね。
笠原:そうですね。話がちょっとずれますが、僕は店のスタッフと居酒屋とかに行くと、あえていちばん若い子に注文をさせるんですよ。メニューをひととおり見て、いかにバランスよくチョイスできるかが問われるわけだけど、こうしたことでも献立力が鍛えられるんですよね。この料理に合わせるならこれがいいかなと、ちょっと意識するだけで献立上手になりますよ。